MS-1の帰還
伊井横 夷夜
読み切り定期
MS-1は心を踊らせていた。なにとて、8.2で再びWoTBの世界に行く事ができるというのだから。
忌まわしき5.5から、彼はずっと闇の中を走り回っていた。どこにも味方はいない。敵もいない。ただ暗い闇の中で一人走り回っていたのだ。しかし、唐突に暗闇の中から呼び声がしたのだ。
「MS-1〜。さぁ、伝説の帰還だ。」
そう、この世界の主、WGが彼を再び呼び戻したのだ。
目の前に鮮明な世界があることが信じられない。MS-1は再びWoTBの世界の土を踏みしめることになったのだ。WGによると、彼はTier2クラスに入るようだ。
「今まで僕はTier1だったのに!」
かつての派生先だったBT-2やT-26、AT-1に会えると思えば、自然と足は早くなるものだった。
「こんにちは!ぼく、MS-1です!」
勢いよくガレージの扉を開け、Tier2クラスに表れたMS-1。しかしそこには、まるで通夜のような空気が漂っていた。同時に、こちらを睨む者も居た。
「こいつか?WGの贔屓で格上げになったマザーファッカーは。」
「気に食わんな、お前。何故そんなのうのうと挨拶ができるのか。」
M3 stuartとAMX38がMS-1の前に立ちはだかった。
「なんで…Tier3の戦車さんが……」
「貴様が消された5.5で、私らはTier3から格下げを食らった。私らはTier3に戻れない割には、貴様だけのうのうと戻ってきた。それどころか格上げまでされるとは。私は酷く怒りに震えているよ。貴様を殺したいほどにな。」
「オマエみてえな猿は犬の糞に塗れて野垂れ死ぬのがお似合いだぜ?」
彼らからはひどい憎しみを感じる。
「M3とAMXは男気がないな。WGに見切られてTier2に格下げになったというのに、まだ根に持ってるのか?まあ俺も、同期だったハ号を格下げされた事は納得行かないがな。」
「紳士らしくないやつらだ」
チニとクルーザー3が言う。
「来たばっかりでよくわかんないんですが…あの………」
「『あの』じゃねぇんだよ!!」
M3が砲をMS-1に向けて撃った。その弾は彼の履帯を掠めた。
「いたいよおおおおおおおお!!」
「HAHAHA、これでも『元』Tier3なんでね。泣いてねぇで来いや。『センパイ』に挨拶しにいくんだよ!!」
「私も加勢するぞ」
M3とAMXに引っ張られてTier3のガレージに連れてこられた。
「センパイ!連れてきました!コイツがWGの贔屓で格上げになったMS-1って奴ッス!!」
MS-1は絶望した。Tier3のガレージのはずなのに、何故3号とM5が居るのだと。
「3号…さん……M5……さん……」
「おっ、噂通りかわいいねぇ、君、ホントにTier2かい?Tier1に格下げされた雑魚どもと一緒に戯れてんのが正解なんじゃネェの??」
「俺たち兄弟はよぉ…どっちも格下げ食らってずっと不服だったんだよ……連れてこられたとはいえ、よう顔向けれんな?所詮はクソWGのクソ贔屓ってか?3号、シメようぜ。」
「はーい」
次の瞬間、MS-1は3号の強いタックルを受け、M5の砲撃をキューポラに食らった。最早痛みで声が出ない。
「………ッ……?!!!!」
「気持ちいいねぇ、その憎たらしい身体が壊れんのは。そうだD2、お前UE 57が行方不明とかほざいてたっしょ?」
「そうなんです…私…一杯探して……今迄ずっと探してるのに……見つからなくて…」
「それ、オレがシメたから。アイツさ、5.5で消されたクセに『銀河の財宝』で戻るチャンス貰いやがってよ。目障りだからシメちったわwアイツの華奢な身体にでっけぇ穴開けてやんの!中々気持ちよかったよアレwww」
「いやああああ……」
D2が悲しみをひねり出す。何とて仲の良かった戦車が、格下げされてきた得体の知れないドイツ中戦車に殺され、どこかに置いてきぼりにされているのだから。
「さすがに…それは……」
「雑魚は黙ってろよ!!!」
またタックルされた。僕もそろそろダメになりそうだ…。
「貴方達!これは許される事ではありません!今すぐTOGさんの所へ行き、自らの愚行を顧みて懺悔すべきです!」
「なんだぁ…テメエら」
声の方向には、Medium2とMedium3、T1E6とFT ACがいた。
「私達姉妹で、3号さん、M5さん、貴方たちを倒します!」
「お兄ちゃんと同期のMS-1さんが頑張ってるんだもんね…私も力を貸さなきゃ……」
「姉さんをそんな目に合わせたなんて許せません!死んで侘びてください!」
みんな女のようだ。
「HAHA。たかが猫ちゃん4匹で何ができるのかね。それとも、わざわざ俺らに犯されに来たビッチなのかい?」
「死になさい」
次の瞬間、彼女らの集中砲火によってM5の体は蜂の巣のような穴だらけになった。
「やるねえ」
「次は3号、アナタの番です。」
普通なら、ここで奴は死ぬのだ。しかし、僕は嫌な予感を感じ取った。
「あっ…!!痛いイダイイダイイダイ」
Tier3に存在しない筈の榴弾がMedium3の後部を捉えた。彼女は苦痛に喘いでいる。
「オレ、オマエノコト、イッカイ、オカシテミタカッタ。オレモ、5.5ノヒガイシャ。スゴク、カンツウサゲラレタ。デモ、コノコ、カミソウコウ。ダカラ、オカシタ」
BT-7……じゃない、奴はBT-7 artだった。
「ヒャッホウ、ここで救世主の登場と来たかww」
しかしBT-7 artは3号の後部を撃った。
「な………なぜ……?!」
「オレ、オマエ、キライ。オマエ、カタスギ。チョウシノリスギ。オトコ、イラナイ。」
「センパイ?!」
3号は程なくして命を落とした。
「あっ……、いやっ…、Medium家の名に掛けて………こんな事は………」
「Medium3チャン、イイネ。イモウトノホウハ、ドウカナ」
「いやだ…」
僕の身を助けてくれた4人の戦車たちは、突然現れた性欲に溺れた戦車に穢された。それどころか彼女たちは例外なく、BTの過激なプレイの末に命を落としてしまった。
「やべえ……あんな過激なファックを見たら俺もヤりたくなってきた…。どっかにビッチはいねぇか?」
「貴様、センパイが死んでいるんだぞ?異常なのか?」
物陰に隠れてBTと死体となったMedium2の行為を見ていた2両は、ガレージの外でこうぼやいた。すると突然大きな影が現れた。
「"殲滅対象発見、コレヨリ、殲滅ヲ開始スル"」
「なっ…?!」
3連射の音が聞こえたのはすぐだった。無残にもAMXには3つの風穴が空いていて、既に息はない。
「オマエ一体、なんなんだ!!??」
「WGさまのお気に入りを蔑ろにしたらしいッスね?同じくWGに気に入られてる俺達が、そーいった奴らを片っ端から"破壊"、"殲滅"してってるって寸法ッスよ。」
「許して……ください……コーラあげますから……」
「低ティアの雑魚にコーラってゆー常備品はねぇッスよ?出任せの嘘ッスね。」
その瞬間、金属が避けるようなけたたましい射撃音と共に、M3には直径15センチほどの大きな風穴が空いた。
【力尽きました】
MS-1の帰還 伊井横 夷夜 @Imnoob_reportme
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