第9話 チョークポイント0.1


「はぁ・・・あの人、意外といい人だったんだな」

「あの人って、高柳たかやなぎ先生のこと?」

「うん」

保健室のベッドに寝かされた僕は、灰原恵まいばらめぐみと一連の出来事を話すことになった。高齢者の運転で命を落とした僕の彼女に、散々なデマや中傷が拡散されている。

「なんなんだよ・・・これ」

「美姫はやってない・・・!?やってないのよ」

「分かってるよ。白石はそんな人間じゃない」

白石に対する中傷の言葉は、故人に対し鞭打つ行為のはずだ。警察も動くはずと頭をよぎった僕に、彼女は首を横に振って否定する。

「動いているけど、効果ないのよ・・・美姫のおばさんもおじさんもキリがないって憔悴しょうすいしているみたいだし」

「そんなことって・・・だから朝、憔悴しきってたのか」

「今日会ってみる? 」

「いや今日の朝、おばさんに美姫の家に行くって連絡したんだけど」

「じゃあ私も行く!」

灰原さんは僕の手を突然掴んでくる。灰原さんから僕の鼻腔に女子特有の甘い匂い感じる。その匂いに僕が思わず顔を逸らしてしまった。

「ご、ごめん突然掴んで」

「あ、いや?そういうつもりじゃ・・・じゃあお願いしようかな、俺もさっきみたいなことがあったら何起こすか分からないし・・・・・・」

「黒崎くん・・・分かった、私ちゃんと見守ってるから」

この時の感情を僕は必死に隠してしまった。もうこの世にいない白石のためか?それとも彼女の親友を異性としてみる人としての尊厳か?僕は白石のことが大好きだ。この気持ちは何があっても変わらないし、僕はずっと君を想い続けたい。僕は心の奥から湧き上がった感情を無理やり押さえて、保健室から帰る準備を始めた。

これが僕のチョークポイントであった。

この時、僕は引き返すなら自分の心に気づくべきだったんだ。故人を愛するのにはどれほどの覚悟がいるのか? そして急な事件でこの世を去った彼女が、僕や灰原さんにどれほどの後悔があるのか。ちゃんと理解していれば・・・僕は未熟だったんだ。

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チョークをなぞって、君と生きる カンジチョー @ukimiushi720lambda

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