第4話 二日目の朝

二日目 火曜日

朝になった。昨日約束した通り、僕は灰谷さんと交換日記するためノートを買うことにした。

なぜかって?

あの後のルールで僕が最初に日記を書いて、灰谷さんが返してやりとりすることになったから。

交換日記で大切な人を失った喪失感を共有するのは複雑だけど、灰谷さんがやりたいなら僕も付き合おう。

教室のドアを開けると本来誰も来てない早朝に、黒板の文字は再び更新されてた。

『やっほー恵と仲良くなれた? ん、もう黒崎くんってさ意外と億劫おっくうだよねー?私がいなくてぼっちになるのはダメだぞっ』

黒板に書かれた白チョークの文字は間違いなく彼女のものだ。もうこの世にいない大切な人。

「白石・・・やっぱりどこかで見ているのか?」

白石は見ているのか?この教室のどこかにいるの?幽霊として彷徨さまよっているの? それとも・・・。

「そんな訳ないよな」

白石美姫はこの世にいない。

理不尽な事件発生したあの日、僕は慌てて病院へ向かった。記憶はあやふやだけど白石の文字を見たせいか少しずつ記憶がよみがえっていく。

(まるでライフルで撃たれた感覚)

病院の集中治療室の前で白石の両親は、身体を震わせてひたすら祈っていた。僕も両親の隣に座って三人で集中治療室前の椅子に座って待った。

(白石・・・お願いだ。生きてくれっ)

僕たち三人の嗚咽おえつはすれ違う看護師や医師たちの耳に入っていたのだろうか。

三十代くらいに見える男性医師と女性看護師は、僕たちに深々と一礼して手術室に入った。

「何も言わなかったのは、助からないと分かっていたから・・・か」

僕が教室内で悔しさのあまり、言葉をこぼすとバタッと後ろ側から何か落ちた音が聞こえた。

「な、なに?」

黒板から離れて物音があった机の方に行くと、灰谷さんの机下に一冊のノートが床にあった。このノートが落ちた音なんだろう。

灰谷恵の文字はだ。名前と数学Bって書かれているのは、明朝体みょうちょうたい風の字形、どこか気持ちがこもっている文字って感じだった。白石や青嶋くんとは違う気持ちのこもった文字を見ていて、僕の気持ちにもものがあった。

(灰谷恵は僕と同じ苦しみを受けた)

僕はノートを灰谷さんの机の下に入れると、中にはもう一冊のノートが入ってる。

普段ならプライバシーとか心配する僕だけど、この時の僕は好奇心のせいかノートを取り出した。

右手で掴むんだものはよく見るとノートじゃなくて、一冊のアルバムだ。

「なんだこれ?」

一冊の白黒チェックが混ざったアルバムには、タイトルはかかれていない。

こんな柄のアルバムにタイトルがないなんて、どんなアルバムか気になる。

「よし・・・開けよう」

一呼吸おいてアルバムを開くと僕がよく知っている人の写真がある。

「白石・・・ということはこれは灰谷さんと白石のアルバムか」

一枚一枚アルバムをめくってみると、料理店やコンビニ、陸上競技場、お台場など様々な場所で二人が笑顔で映っている。アルバムを何枚かめくったところで僕の視界が完全にぼやけた。

「うっうっうっ・・・うわぁぁぁぁぁぁ」

溢れるばかりの感情に堪えきれなくなってしまった僕は、黒板にむかってひたすら彼女への気持ちを書きつづった。

ものすごく酷くて汚い文字を、感情と共に吐き出してしまった僕はその後すぐにトイレに入って吐き続けた。

胃の中が空っぽになるくらい吐き続けた僕は、頭を掻きむしるだけで気が済まずひたすらグラウンドで走り続けた。

帰宅部だった僕だけど感情のせいか、呼吸が荒くても汗を出し続けても壊れるまで走りたい。

結局は体育教師が無理やり僕の体を押さえて、黒板の文字が綺麗に消えた教室に戻されてしまったけど。

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