第3話 交換日記
(美姫・・・なんで死ぬよの!?)
「灰原? あのさ、この前はほんとに・・・」
「それ以上言わないでっ!」
「っ・・・ごめんな、なんか力になれることあったら俺に言えよな」
「う、うん。ありがとう青嶋くん」
私はまだ自分を責めてる。幼い頃からずっと隣にいた美姫は私の大切な親友だった。
美姫は他の子と遊ぶようになってからも、私との時間は毎日確保してくれた。どれだけ習い事や勉強、遊びが忙しくても美姫は私を一人にしなかった。だから私の友達は美姫しかいなかった。
その美姫が交通事故で死んだ。
「うっうっうっ・・・なんでぇ死んじゃうのよ・・・美姫ぃ」
私の涙はいつ終わりを告げるのだろうか。たった一人の親友を失った悲しみを理解することなんて、誰ができるのだろうか?
いや分かっている。一人だけ同等の苦しみを与えられた人のこと。
「青嶋くんならきっと」
私がポツリと想いを吐き出した次の瞬間だった。
「どうしたの?えーと、灰原さんだっけ・・・」
「あ、青嶋くん!?なんでいるの」
「ああ。なんかさ白石のこと考えたらついこの席に来てしまって」
そうだった。青嶋くんは今も美姫のことが好きなんだ。
私の痛みが彼と同等なんて一瞬でも思った自分を殴りたい。青嶋くんは私と同じく目立たない人だけど、人を思いやれる凄い人だった。
私と彼の目から涙がポタポタと溢れ始めてしまう。
「は、灰原さん大丈夫か?」
「あ、青嶋くんこそ涙・・・」
「うん。まだ白石を奪った奴のこと許せないんだよ」
「分かるよ・・・」
八十過ぎのおじいさんがアルコールで酔っぱらって、ブレーキとアクセルを間違えた。
そのおじいさんの家には成人した孫娘も、息子夫婦も同居していたらしい。美姫のおばさんは娘を奪われた理不尽な苦しみを抑えながら、私に直接伝えた。
「警察から話を聞いたんだけど、執行猶予もつかないほど罪が重いし、賠償金も相当な額になるらしんだよ」
「うん・・・」
「でも、でも、白石は戻ってこない」
死者は生き返らない。どれほど犯人に罰を与えてもお金をもらっても、17歳の少女の未来を奪ったことは許されない。
私は覚悟を決めて彼の頰を手でなれる。
「大丈夫、大丈夫だから。ね?青嶋くん」
「う、うん。ありがとう灰原さん」
この時の私はどんな表情をしていたのだろうか。純粋に彼を心配したか、親友を奪われた理不尽な怒りと悲しみを分かち合いたかったか、親友の好きな人を奪うチャンス・・・か。
「ねぇ青嶋くん? しばらくさ日記交換しない?」
「えっ、どうして?」
「共有したいの。ほらさ、私たち美姫とめちゃくちゃ仲良かったよね?だからさ・・・いいかな?」
「分かった・・・灰原さんのためになるなら僕は協力するよ」
青嶋くんは何か暗い顔でチラッと黒板を見た後、私に手を差し出した。私はその手を合わせて握手する。
「よろしくね」
「よろしく灰原さん」
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