第3話 噂、黄
私たちは屋上まで全速力で駆け上がった。
「はぁ...はぁ....!!!」
息切れの激しさとは相対するように涼しくなり始めた空気が穏やかに流れていく。その風音は[茜色]。私の好きな季節がやってくる。
ここは私たちの秘密基地。なんてそんな大層なものではないけれど担任の森川センセが「教室にずっとは居づらいだろう。」と渡してくれた屋上への合鍵をここ3ヶ月ほど有効利用している。
美術部と軽音部の私と茜は多少の時間が経っても息が整わない。こんなところで運動不足を痛感するとは。そのうち茜が話し出す。
「あの人ね、最初の1ヶ月、軽音部に来てたんだけど性格最悪でメンバーに嫌われて来なくなったみたいで...。」
茜は私を助けてくれたのか。ただ、そんな人には見えなかったが、人は見かけによらないとは言うものだ。私は茜に感謝の意を示した。
「いいよー。そういえばねーさっき聞いたんだけど!...」
先程とは打って変わり、いつもよりやけに嬉しそうに茜が話し始めた。
「この学校に昔、七不思議があったのって知ってる?」
初耳だ。これはまた果てしなく澄んだ[黄色]。好奇の色だ。というか七不思議とは、これまた小学生的なものが出てきた。茜は楽しそうに続ける。
「最近まで七不思議さんが居なくなっちゃってたらしいんだけど最近?というか丁度私たちが入学した頃に帰ってきたんだって!」
「そもそも七不思議自体あったんだ。」
多少の嘲笑を含めながら私は言う。
「いーや?七不思議じゃなくて七不思議さんって言うんだって。7つの不思議な現象があるんじゃなくて、たったひとつ。ただその1つに、たくさんの疑問が湧いて七不思議さんって呼ばれるようになったんだって。その名も。」
あまりに楽しそうに話すので、私も聞き入ってしまった。純粋に盛り上がってしまいその昼休みはろくにご飯も食べず言葉を交わすことに色を咲かせた。ただ、七不思議さんの名前が頭の中をヘビロテして忘れられない。どこにいるのかわからず、そもそも誰なのかさえ分からない。ただその声を、曲を、校内に響き渡らせ魅了する。共感覚でもない人にもその声には[色]を感じるらしい。
ーその名も。『Guitar Fairy』
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