第1話 色、青

「おはよー」

[青] 憂鬱そうな、深い青。憂鬱なのは当然だ。今日は皆嫌いな月曜日で、周りを見渡せば誰しもが眠たそうな顔をしている。どんな親でも、自分で進学すると決めた学校ならちゃんと朝起きて行きなさい、なんてこと言うけれど、朝、特に月曜の朝なんてものは辛くて仕方がないのだ。...そんなことを考えていたら背中に衝撃を感じる。そして[黄桃色]。

雪白ゆきは〜!おはよ!今日はかっこいいヘッドホンしてるね〜!」

元気で陰りのない声。それでいて私に気を使って話しかけてくれるのがわかる。

「ありがと〜。おはよ。あかねは今日も元気だね〜。」

私がこうやって挨拶をするのもこの小学生以来の親友だけだ。彼女だけは、私の聴覚過敏と共感覚について知っている。

「もちろん!それが私の!唯一無二の取り柄だよ〜!」

今度は純原色じゅんげんしょくの[黄色]だった。

そう、私は耳においては健常者イッパンジンとは数倍かけ離れたものだった。物心ついた時から普通とはなにか違う事を悟っていた。音という存在は常にうるさくて、頭の中では色が鳴り響いていて。その色が何を表しているのか後に知ることになったが、その異常を知った両親、特に父が発したどすの効いた黒い哀の色はあの時の私の頭からずっと離れてくれない。

何がともあれそんな私でもイッパンジンと変わらない生活を送れている事はありがたく感じている。もちろんヘッドホン等をつけておかないとではあったが、それでもこうやって話しかけてくれる友人ができたのだ。私も普通の青春を送れている錯覚に陥れた。

『キーンコーンカーンコーン』というチャイムと同時に出歩いていた人が席につく音。

無機質な[灰色]が、別れ際「じゃあまたね。」と茜から発された[レモン色]をかき消すように、こちらの都合とは関係なしに鳴り響く。そうやって私の1日はいつものように始まる。

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