第三話 『え、放置プレイですか』


 突然だが、私はご存じの通り前世で社畜だった。

 それはもう、言葉では表せないくらい社畜だった。

 朝は四時起きで仕事、昼は昼飯抜きで仕事、夜は仕事とちょっとのゲーム。

 当然、ほとんど心が休まる時間はほとんど無い。

 そんな前世の私が目指したもの、それはスローライフ!

 朝は好きな時間に起きて、食パンに目玉焼きをのせて腹を満たす。

 昼は日向ぼっこでもしながら、たまに遠出して旅行をしたり。

 夜はボーっと線香が途切れるのを眺めたり、ボーっと風呂に入ったり。

 社畜生活の反動か、私はことあるごとにこんなスローライフ生活を望んでいた。

 いつかは片田舎で隠居生活をしたいなぁ、そう切実に願っている内に私は死んでいた。



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...............



 私は今、古ぼけた家の正面に立っている。

 隣にはスティ。

 周囲を見渡しても、目に入ってくるのは生い茂る木々のみ。


「こ、ここがディアの行きたいって言っていた場所か......」


 スティはどう反応すれば分からないのか、声を若干引きつらせている。

 まあその反応は分からなくもない。

 あれだけ意気込んで飛んできた場所には、今にも崩れそうな一軒の家があったのだから。


「まあ、見た目はアレだけど中身は本物よ?」


 私は言葉を見付けられないスティを置いて、迷いなく家へと入っていく。

 ゲームで一度見たことがあるから、内装はしっかり把握しているのだ。


「ちょ、ディア待ってよ。」


 スティは慌てて付いてくる。

 あとついでに、身体強化魔法まで掛けてくれた。


「どんどん歩いて行かないでくれよ。もしかしたら、何らかの魔獣が住み着いてるかもしれないだろう。ここは魔国との国境付近なんだから。」


 そう言って、スティは私の前に出る。

 そして腰に携えていた杖を抜く。


「スティ、そんなに警戒する必要は無いわ。」

「それはどういう、」


 スティがそう言い終える前に、彼の纏っていた身体強化魔法が掻き消えた。


「なっ、」

「あ、これは別に害があるものじゃあないわ。むしろ、私たちを守ってくれているものよ。」


 私は壁まで歩いていき、一つのボタンを押す。

 すると、この家の壁が一斉に光出した。


「うっ、眩しい。」


 スティは訳も分からずに、咄嗟に目を細めた。


(よし、どうせならもう少しだけスティを驚かせてやろう。)


 私は少しだけ、スティに悪戯をしてやることにした。


「これは、全自動お部屋掃除機、通称そうちゃんね。なんと、ほんの数秒で部屋をピカピカにしてくれるのよ。」


 ようやく目が慣れたのか、スティが目を開けた。

 そして、私はそれを見計らって地面に落ちていた丸い形に二本の腕を生やした機械に電源を入れる。


ウィィィーーーン


 そんな機械音と共に、全自動お部屋掃除機器ことそうちゃんは動き出した。


「って、今度は何だぁぁぁああ!?」


 スティは突然部屋中の地面を隙間なく移動し始めたそうちゃんに目を丸くした。

 さらに、全自動お部屋掃除機器はとてつもない速度でスティに向かって行く。

 今のスティはこの家の結界によって身体強化魔法を纏っていないはずなので、スティは素の身体能力であのそうちゃんから逃げ回る。

 流石、ハイスペック。


【数秒後】


「すごいでしょ、この吸引力。」

「はぁ、はぁ、もっと言うことあるだろ。」


 そう言って、スティは私の目の前に立った。

 スティの表情は、彼の金髪の前髪に隠れていて拝むことは出来ない。


「スティ、どうだった?」

「......」


 スティは無言。


「す、スティ?」

「なあ、ディア。」


 スティは真剣な目で私を見つめる。


「ディア、僕には一つ決めていることがあるんだ。自分ルールってやつだね。」

「何を決めてるの?」

「それはね、やられたらやり返すってことだよ。つまり、」


 スティは突如悪戯をしようとする子供の様な表情になり、私の脇へとそっと手を添えた。

 ん、この展開はどういう......


「つまりはお仕置きって事だよ、ディア!」


 そう言うと、スティは私の脇を高速でくすぐり始めた。


「アハハハハ、アハハッ! ちょ、スティ!?」

「この家の結界の仕組みは何となく分かった。何年も使ってなかったからか、効果がだいぶ薄まってるね。」

「アハハハッ、何を?」

「まあ要するに、この程度の結界で僕の魔法を封じれると思ったらダメだよ、ディア。」


 途端、スティの体はまばゆい光に包まれた。

 こ、これはまさか、身体強化魔法!?

 まさか、こんなにも早く結界が解かれてしまうとは。

 原作でも、スティが仲間に居ればこの家でも魔法は使えたけど。


「ちょっと、アフフ、、、大人げない、、、スティ、フフフ。」

「まあ、甘んじて受け入れたまえ。」


 上機嫌で身体強化魔法で自身にバフを付与し、指の動きを速めていくスティ。

 さらに、周囲からは四本の鎖が出現し、私の四肢を拘束した。

 ま、まさかスティ......


「じゃあこれで、数分放置しておこうか。」


 最後にスティは自身の分身を三体作り出し、一斉に私をくすぐらせた。

 スティ本人は椅子に座って優雅にくつろいでいるのは、果たしてわざとなのだろうか。

 え、本当に数分間この状態にしておくつもりなの?

 ほ、本当に?


「ス、スティィィィィイイイイ!!」






 あの後、結局五分くらいしてようやく開放してもらいました。



~あとがき~

次回はヒロインや王太子側をやります......(多分)


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