俺たちの問題ではない
七
「今日はお疲れさまでした」
遠野さんが輪の中心で
遠野さんは
「じゃあ」
解散、と遠野さんが口にしようとしたところで、それまで黙っていた基先生が声を上げた。
「今日は自転車でここまで来たのか」
俺たちは互いに目を見合わせ、順番に答えた。
「はい、そうです」
と俺が言い、
「うちらはバス〜」
と朝霧先輩が佐倉さんと顔を合わせながら言い、
「走ってきました」
と遠野さんが胸を張って言った。
佐倉さんが目を丸くし、遠野さんへと奇異の眼差しを向ける。当然の反応だ。むしろ、動じない他の面々がおかしいのだ。かく言う俺は既に感覚が麻痺している。
「そうか。ならば、昼食でもどうだろうか。ちょうど昼時だろう」
腕時計を見る。時刻は午前十一時五十分。確かに空腹を感じる。
「近くに
「俺は構いません。
拒否権はなさそうだ。遠野さんの目がきらきらと輝いている。俺は
「ぜひ」
と答えた。
「朝霧先輩と佐倉さんはどうですか?」
「うちらもオッケーだよね、ともりん?」
「はい。あ、でも、バスの時間確認しておかないと」
「二人さえ良ければ送ってゆこう」
「
基先生が遠野さんへと目配せする。その意図を察知し、遠野さんは首を横に振った。
「走って帰ります。今日は絶好のランニング日和ですから」
「承知した」
基先生が先導し、それに朝霧先輩と佐倉さんが続く。俺は遠野さんと肩を並べて二人に続いた。
「基先生、社会奉仕部が続いて嬉しいんだな」
「そうなのでしょうか」
「浮かれているじゃないか」
俺にはそう見えないけれど。遠野さんの視線に釣られ、基先生の背中を凝視する。不意に振り返られ、基先生と目が合ってしまった。やはり
「大丈夫ですよ。家内にスペアキーを頼みましたから」
不意に快活な声が聞こえてきた。仲田さんの声だ。声音に反して、何か問題が起きたような口ぶりだ。俺は視線だけ声の主へと向けた。簡易テントが片付けられている前で、仲田さんが清水さんと何事か話している。
「どうかされましたか?」
遠野さんが立ち止まり、大声で
「遠野君。いやなに、軽トラの鍵が無くなってしまってね」
「鍵が、ですか」
遠野さんは
「盗まれたということでしょうか」
俺が
「
仲田さんが近くのイスへと視線を向ける。折り畳み式の簡易イスだ。その上にはセカンドバッグが置かれている。あのバッグには見覚えがある。確か栗本さんにゴミ袋を手渡した際、その
「
「いやいや、スペアキーは家にあるし、三十分もすれば家内が届けてくれるから大丈夫だよ。どのみち片付けもそれぐらいかかるし、古い軽トラだからあんまり困っていないよ。金目のものも入っていないしね」
「そうは言うがね仲田君」
清水さんはなおも食い下がっている。正義感が強く、違法行為を許せないのだろう。
「ともかく、俺は警察沙汰にする気はありませんよ。遠野君たちも余計な心配かけてごめんね。でも、大丈夫だから」
遠野さんの顔は納得いっていない。けれど、基先生が、
「私たちが首を突っ込む問題ではない。行こう」
と言って先行すると、遠野さんは大人しく昼食へと向かった。
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