開始宣言

 三


「四人一組か。さて、一体どう分かれようか」

 遠野さんがあごに手を添え、仲間内をぐるりと見回す。皆の視線も自然と釣られる。

 非営利団体『あいおい星』の方が説明してくれた内容では、参加者が四人一組となり、『あいおい星』の人間が一人引率してゴミを拾ってゆくという。緊急時などに連絡を取り合うためだそうだ。ちなみに、簡易テントが張られた運営スペースには清水さんと数人の関係者が残っているという。

「社会奉仕部としては、俺、越渡こえど君、はじめ先生の三人で組みたいところだが」

「それだと写真撮影ができないでしょう」

 俺の発言に遠野さんがうなずいてみせる。基先生は最初から想定内とばかりに、

「私が抜けよう。これで四人ちょうどだ」

 と言った。

「先生、いいんですか?」

 遠野さんの言いたいことはわかる。俺は後の言葉を引き継ぐ。

「顧問なのに俺たちを監視しなくてもよろしいのでしょうか」

 顧問教師として訪れている以上、部員である俺たちの監視、指導に従事するべきなのだけれど、別グループとなってはそれもできない。

 基先生は俺ににらみを利かせた。余計なことを言うな、と言わんばかりの表情だ。

花緑かろく先生、ありがと~」

 朝霧先輩が佐倉さんの肩を押し、基先生へと手を振る。一気に場が和んだ。それ以上何も言わず、基先生は他の参加者たちの中へと消えていった。参加者は四十人以上集まったという。その誰もが社会奉仕部というわけではなく、むしろ一般の参加者が大多数を占めている。ならば、基先生があぶれることはないだろう。もしそうなれば、主催者の方と相談して五人一組にしてもらえばいい。

「基先生、意外と生徒想いなんだね」

 佐倉さんがぽつりと漏らした台詞に、俺と遠野さんは苦笑する。

「意外でもないさ」

 結果から言うと、佐倉さんがその意味を理解するのに一日もかからなかった。


 主催者である『あいおい星』の方から渡されたゴミ袋は三枚。可燃ゴミ、不燃ゴミ、その他という分類だ。ゴミ袋がいっぱいになった場合には、一旦運営スペースまで戻る必要がある。ともあれ、基本的には担当エリアを終えた後、運営スペースにてゴミを引き渡し、『あいおい星』の担当者に分別チェックをお願いするという流れだ。

「『あいおい星』の仲田録太郎なかだろくたろうです。よろしく」

 手を差し出され、俺たちは順番に握手を交わした。基先生と同じくらいの年齢だろうか。恰幅かっぷくが良く、暑さに弱いのか額に汗が滲んでいる。制汗剤のさわやかな香りがふわりとただよってくる。

「学生さんか。偉いねえ。社会奉仕部なんてあるんだ。感心しちゃうよお」

 俺たちが順に自己紹介を済ませると、仲田さんは軽快に笑った。とても愛想が良い方だ。距離感が一気に縮まったように感じられた。

「今回拾うものは一般的にゴミと呼べるものです。雑草とか枯れ葉は集め出すときりがないので対象外とします。粗大ゴミを見つけた場合には俺が写真を撮って、地図に印をつけて、別途回収します。ここまでオーケー?」

 俺たちがうなずくと、仲田さんは満足そうに笑った。

「実際にやってみて、わからないことがあったら何でも聞いてください。俺たちの分担は城南橋のちょうど真ん中付近なので、少し歩くことになるけど、途中で体調が悪くなった場合には声をかけてください。いいかな?」

 仲田さんが腕時計に視線を落とす。

「今は九時五分だから、十一時に戻るのを目安にしましょう。それじゃあ、張り切っていきまっしょー!」

 仲田さんの掛け声に呼応し、俺たちは声を上げた。

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