集合場所は城南川

 一


 高校生活初めてのゴールデンウィークを終え、迎えた第二日曜日。三ツ谷市の南東部を流れる城南川じょうなんがわの河原には、老若男女問わず多くのボランティア参加者が集っていた。

 城南川は釣りやバーベキュー、花火大会といったイベントによく使われる場所だ。俺も幼少期にはよく河原で遊んでいたけれど、当時は鬱蒼うっそうと生い茂った草木が化け物のように見えて、夕暮れ時には逃げるように帰っていた。『幽霊の正体見たり枯れ尾花』とはこのことか。ススキではなかったけれど。

 東城南町と西城南町とを隔てるように流れる城南川は町の境界も担っており、両町をつなぐ形で城南橋じょうなんばしかっている。普段は水遊びに最適な緩やかさだけれど、夏場にはよく台風の影響で増水し、昨年には堤防決壊の一歩手前にまで達していた。その結果、堤防は大きく損壊し、早急に補強工事が行われた。今は太陽光の反射が眩しいほどに白く、綺麗な堤防で河川が囲まれている。

「この度は城南川の清掃活動にご参加いただきまして、誠にありがとうございます。『あいおい星』代表の清水誠也しみずせいやです」

 簡易テントの前で老齢の男性が声を上げ、うやうやしく頭を垂れた。テントの下には簡易イスが数脚並べられ、背後には軽トラックが止まっている。

 参加者の視線が声の主に集中し、辺りが静まり返る。川のせせらぎがよく聞こえる。

「城南川は一級河川に指定され、流域面積も三ツ谷市だけでなく都道府県の中でも上位にあります。とは言え、城南橋が架かるこの流域は比較的流れが緩やかで、本日の天候は晴天。絶好の清掃日和であります」

 はきはきとした喋りからは年齢を感じさせない。えんじ色のジャージの内側にワイシャツがのぞき見えるのは、代表者としての最低限のマナーだろう。銀色のフレームが太陽光を反射し、時折眩しさを感じさせる。

「城南川は水が綺麗であることで有名ですが、残念ながら一部のマナーの悪い方によってゴミが不法投棄されております。自然に還らないプラスチックゴミや、割れたびん、花火の残骸やライターなど。あろうことか、川に放流されているものまであります。昨夜も夜中遅くまで花火を行っていた方がいたようで、バケツが――」

 段々と眠くなってきた。清水さんは熱が入っているようで徐々に声音が大きくなっている。校長先生しかり、人前で喋ると気が大きくなってしまうのだろうか。もしかすると、多くの人から注目され、緊張のあまり不要なことまで話してしまうのかもしれない。

 やがて参加者の退屈を悟ったのだろう。清水さんは話を切り上げ、

「では、本日は怪我せず、無理せず、遠慮せず、城南川を綺麗にしていきましょう!」

 と拳を高く掲げた。

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