それはもう詰んでいるもの

万倉シュウ

無意味極まりない盗み

 時は金なり。時間はお金と同じように大切なものだから、決して無駄にしてはならないという意味だ。アメリカの政治家ベンジャミン・フランクリンという方による"Time is money.タイムイズマネー”が由来とされている。この方は他にも多くの格言を残しており、人生を豊かにするには時間を大切にしなければならないと強く説いている。

 多くの人間が当然のことだと思うだろう。けれど、理解と実行は別物だ。頭では勉学を優先すべきと理解していても、遊びに出かける学生は多い。かく言う俺もその一人だ。誘惑に抗えない時があるのだ。

 何が無駄で何が大切なのか。そんなことは結果を見たところできっとわからない。ならば、今の自分にとって大切なことを選び取るしかない。それこそが『時は金なり』の真価ではないか。

 俺にとって大切なことが『人付き合いを浅くすること』だとしたら、遠野さんにとってのそれは『違和感に内在する意図を汲み取ること』だ。それは困っている人に手を差し伸べることにつながるという。


 さて、本題に入ろう。河川の清掃ボランティアにて、ゴミを運搬する軽トラックの鍵が紛失した。持ち主は鍵が入ったセカンドバッグを運営スペース内の簡易イスに置き、あまり気にかけていなかった。人目があり、軽トラック内に金目の物がないからと油断していたようだ。

 運営スペースには常に関係者が待機していた。通りすがりの人間や参加者による犯行は不可能だ。つまり、警戒されず運営スペースに近付くことができる関係者のみ犯行可能ということになる。

 しかし、鍵を盗んだところでメリットなどない。持ち主によると、自宅にあるスペアキーを奥さんが持って来てくれるという。スペアキーが届く三十分の間、軽トラックを見張っていれば実害は出ない。

 犯人の意図がどうであれ、キーシリンダーを交換すれば済む話だ。警察に相談するほどのことでもないと持ち主は気丈に笑っている。けれど、それで一件落着にしてくれないのが遠野さんだ。彫りの深い顔をこちらへ向け、小首を傾げてお決まりの台詞を言う。

越渡こえど君、どういうことだろう?」

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