第49話 新たな修行

 自分の気持ちに気づいてもらうため、ハルゴ村へのクエストを終えるまでハルと行動を共にすることにしたマリー。


 イーチノの許可も貰い、気兼ねなく好きな人と一緒にいられると思っていた。


 しかし……。


「なぜ、一ノ瀬組の女が一緒にいる」


 ハルの修行先でライバルとも言える相手と出会ってしまう。


「何か問題でも? リリー・ハロウィン」


 そうリリー・ハロウィンだ。


 彼女はハルと師弟関係の女性だ。スタイルもよく、少し不愛想な部分があるが顔立ちも悪くない。街を歩けば男たちは綺麗な顔立ちに振り向いてしまうほど美人系と言っても過言ではないのだ。


(ハルはこの女のことをどう思っているのでしょう)


 マリーとハルの関係は良くも、悪くもない、いわば平凡なものだ。一言で言い表すと顔見知り以上、友達ぐらいというべきだろうか。対しリリーとハルの関係は師弟関係。マリーとの関係値よりもより進んだ関係と言えるだろう。


 師弟関係が進めばより親密な関係となるかもしれない。マリーはふたりの関係が深くなってしまうかもしれないことに危機感を覚えているのだ。


「サイコ化し、あれだけ多くの者に迷惑をかけておいてよくのこのこと顔を出せるな」


「……」


 リリーの言っていることは、正しいと言える。それはマリーも分かっていることのようで、何も言い返さず黙っている。


 様々な人物の迷惑をかけ、さらにはハルに対し甚大な被害を与えた。師匠としてリリーも黙ってはいないだろう。


「黙るのが趣味か? 弁明があるなら述べろ」


 リリーの強気な発言にマリーは視線を伏せたのち、大きく深呼吸をする。そして口を開いた。


「リリー・ハロウィン。あなたの言う通り私は皆に迷惑を掛けました。本当に申し訳ありません」


 謝罪の言葉を述べると同時に、頭を下げ深い謝罪の意を表す。


「……」


 その謝罪は誰が見ても誠心誠意のものだと分かるものだった。深く頭を下げた状態から一切動かず、リリーから許しの言葉がもらえるまで姿勢を保つつもりだ。


 一方ハルはこの状況をどうしてよいか分からず、わなわなしている。


「……もういい。頭を上げろ」


 謝罪の意が伝わったのか、リリーは大きくため息を付き頭を下げる彼女に、半ば呆れたような根負けしたような声音で言葉を放つ。


 その言葉にマリーはゆっくりと頭を上げる。


「そこまで謝罪の意を示している相手に、許しを与えなければ私の方が子供になってしまうな」


 再度リリーは大きなため息を付く。


「貴様も一ノ瀬組のために命を張った結果、サイコ化してしまったようなものだ。迷惑をかけてまで私たちから一ノ瀬組を守ろうとしたのだ。悪いことではない。立派なことだ」


「ありがとうございます」


 相手をほめたたえることがリリーなりの『許し』なのだろう。直接許すと言葉にせずとも、相手をほめたたえることで彼女はそれで許したということにしているようだ。


 わなわなとしているだけだったハルも、ふたりが仲直り


「ハルと行動をともにしている理由は意味不明だがな」


「それは、ハルとクエストに同行するためです。いきなりともに行動するよりも、出立する数日前から行動を共にしていたほうが後に連携を取りやすいかと思いまして。もちろん恩返しも込めてですが」


「なるほどな。ハル、どんなクエストを受けたのだ?」


「ハルゴ村に居座るコボルトを数体討伐するクエストだよ。それにハルゴ村には僕に関連する何かあるっていう情報を掴んだからそのついでに行くんだ。一石二鳥でしょ?」


 クエスト内容を大まかに聞いたリリーはしばし顎に指を当て、数秒考え事をする。そして考えがまとまったのか、伏せた瞳をハルへと向けた。


「ハル、そのコバルト討伐クエスト、私も同行しよう」


 またもや驚きの申し出にハルは驚きを隠せない。


「ど、同行って……。ありがたいけど、そんな易々とクエストに同行していいの? こういうのってお金がかかるんじゃ……」


「傭兵として同行するのではない。師匠として同行するのだ。弟子から金をとる師匠などどこにいる」


 その言葉を聞いて安堵の表情を浮かべるハル。一文無しの彼にとってお金のかかることは現状控えたいのだ。


「そっか、ありがとう。でも傭兵の仕事はいいの? そっちも大事なことでしょ?」


「そこはうまくやる。出立の日が決まったら教えてくれ。その日は仕事を入れないようにしよう」


「分かった。それじゃあさっそく修行を始めようか」


「ああ。始めよう。ついでだが、一ノ瀬の女。たしかマリーと言ったな。貴様も修行に参加しろ」


「私もですか。なぜです」


「クエストに同じく同行する者として修行して損はないだろう。それに、私は貴様よりも強いと自負がある」


「ふふ、そうですか。ならその自信を私がへし折ってあげましょう。修行とは名ばかりの本気の戦いですよ」


「一線解放状態ではない貴様など敵ではない。では、始めるぞ。ふたり同時にかかってくるがいい。軽くあしらってやる」


 こうして、マリーを含めたリリーとの修行が再開した。

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