第50話 修行の成果
リリーとの修行を開始してから2週間が経った。
修行の成果はというとハルとマリー両者の実力は格段と上がっていた。
走り込みや筋肉トレーニングを行う基礎的な体力づくりから始まり、木刀を使用した模擬戦闘を行った。それを毎日続けた結果、目に見えるほどの成長を成し遂げていた。
修行を始めて数日はリリーの圧倒的な実力についていくことができず、マリーでさえ敵うことがない相手だった。一線解放をした状態であればリリーの実力を凌駕する力を持つマリーだが、通常状態では彼女の力に一歩及ばずという状態だ。
ハルも自身の弱点である攻撃の甘さを鍛え上げるべく、模擬戦闘でリリーの攻撃を弾いて魔力を溜め切った状態での弾きで隙を作り出す以外の場面で攻撃をする訓練をした。しかし、素早い動きについていくのが精一杯で満足のいく弾きができず、攻撃のチャンスを作るどころか、効率よく魔力を溜められずにいた。
しかし2週間たった今となっては両者ともリリーの実力に匹敵する、強さになっていた。
マリーは相手の動きに対し的確な攻撃を繰り出せる技術を身に着け、さらなる高みに上り詰めていた。ここで培った実力はイーチノの護衛の際にも大いに役立つだろう。
一方でハルも目まぐるしい実力を身に着けていた。特に伸びしろが明らかだったのは、相手の攻撃を弾くタイミングと避けるタイミングの使い分けである。
彼は攻撃手段が乏しく、新米冒険者よりも劣る。しかし、攻撃を弾き大きな隙を作り出すことに関しては特化しており、刀剣を扱う冒険者ながら守りに徹した剣士なのだ。そこで彼は攻撃手段を増やすのではなく、攻撃を弾くタイミングと避けるタイミングを鍛え上げることにしたのだ。短所を伸ばすよりも、長所をさらに伸ばした方が良いと思ったからだ。
そして2週間、リリーからあらゆる攻撃を受けたハルは弾くタイミングと避けるタイミングを視覚と感覚で使い分けられるようになっていた。
※
「リリー、ちょっといいかな」
その日の修行終わり、ハルはマリーが隣にいる状態でリリーに声を掛ける。
「どうした。出立の日が決まったか?」
「それもかねて、リリーに聞きたいことがあるんだ」
修行後の片づけをしていた手を止め、リリーはハルたちの方へと向き直る。
双方の視線が交わったところでハルは口火を切る。
「リリーから見て僕たちはどれほど強くなったと思う? 僕たち自身は強くなったと思うところはある。けど第三者の意見も聞きたいんだ。自分の意見だけじゃ偏った情報しか得られないから」
ハルがリリーに話しかけた理由は第三者から見て、自分たちがどれほど成長したのか知りたいというものだった。それも素人の目からではなく、街の中でも屈指の実力を持つ人物からの意見だ。
実力を持つ者からお墨付きを貰えれば、相当な自信になるだろう。
「ハル、貴様はもう少し自分に自信を持ったらどうだ。自分の実力ぐらい自分で把握するのが当たり前だ。だが、私から意見を述べさせてもらうなら、実力は並みの冒険者以上、うまく立ち回り戦うことができなのならこの街で名を挙げている冒険者に並ぶ実力を発揮することができる……と言ったところか」
思わぬ称賛に驚きの表情を見せるハル。
「正直なところを言うと貴様らふたり、この短期間でこれほどの実力を伸ばすとは思わなかった。ハル、貴様は弾くタイミングと避けるタイミングの使い分けができるようになったし、マリーに至っては切れのある攻撃がさらに磨かれ至高の存在となっていると、私は思う。ふたりの連携もなかなか刺激だったしな」
2週間という短期間でかなりの実力を身に着けたふたり。戦闘のプロの目から見ても成長しているのは明らかだった。
加えてハルとマリーの連携力。ふたりでリリーへと攻撃を行えば、倒すことはできずとも連携次第で攻撃を当てられるようになっているのだ。修行開始当初は連携なんて言葉は全くなかったのだから、成長したといえるだろう。
称賛に値する言葉を貰えたふたりは思わず頬がほころぶ。
「それで、出立の日は決まったのか?」
「あぁ、うん。今決まった。3日後に出立することにするよ。それまでに持っていくアイテムの選別なんかをして準備をするつもり」
「そうか。なら、この3日間は修行はなしだ。毎日続いた修行の疲れを癒しながら準備するといい。私も今日から数日間は仕事を入れないようにする。マリー、貴様も準備に入るか?」
「準備も行いますが、しばらくイーチノ様や一ノ瀬組の皆とまともな会話をしていなかったので、久しぶりに会話を楽しもうかと思います。出立すれば数日かあるいは数週間は話すことができなくなりますから」
「そうか。大事な仲間がいるのなら交流を深めるのもありだな。各々自分の時間を楽しむとよい」
片づけを終えたリリーは、「では3日後に街の入り口で落ち合おう」と言葉を残しその場を後にした。
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