第3話 その名は『ハル・フワーロ』

「はぁ……はぁ……か、勝った!」


 スケルトンを無事倒し、脱力するようにその場にへたり込む青年。


 分からないことだらけの状況での戦闘は、とても疲れが伴うものだった。


「疲れた……」


 特異体質とも言える彼の戦い方。


 ただ武器を振るうだけでは、相手にダメージが通らず、倒すことが難しい。


 そこで、攻撃を弾くことで、彼の体内で魔力を蓄積させることができる。


 蓄積した魔力を解放し、武器に付与することで初めてダメージを与えられる武器へと進化させることができるのだ。


 弾く、溜める、付与する。彼はこの一連の動作をしなければ、敵を倒すことが難しいのだ。


 しかし、一連の動作をスムーズに行えた。これは、体に染みついた動作が自然と行動に移すことができたと言えるだろう。


「僕は戦いに身を投じていたのかな? 魔物の名前も咄嗟に出てきたし」


 記憶の手掛かりとして、手に入れた情報はふたつ。


 ひとつは戦闘に精通している職に就いていたのではないかということ。


 もうひとつは、魔物の知識があるのではないかという点だ。


 スケルトンが目の前に現れたとき、迷うことなく刀剣を抜くことができた。もし戦闘経験のない状態であれば、怯え刀剣に手をかけることすら難しかったはずだ。


 加えて、初戦闘にもかかわらず敵との距離感や立ち回りを意識した戦いができた。

 

 これは、過去に戦いに身を投じそれが身に染みついていたということを意味するのではないかと彼は推測する。


 そして魔物を見た瞬間、それが『スケルトン』だと分かった。


 本当に『スケルトン』という名称なのかは不明だ。しかし、咄嗟に魔物の名称が出てきたのだ。魔物の存在を知っているという証明にはなるだろう。


「でも、他の魔物の名前は出てこないんだよなー。魔物を見れば名前が浮かんでくるかな?」


 ふと共に戦った刀剣に目を向ける。


 傷一つないきれいな刀剣。とても頑丈で立派な刃だ。記憶を失う前もこの刀剣で戦い抜いてきたのだろうと、青年は考える。

 

 綺麗な刀身に見とれていると、刃の付け根の部分に何かの文字が刻印されていることに気が付く。


 柄の傍に掘られており、光が反射する角度を変えるとくっきりと表れ、文字を読み取ることができる。


「ハル・フワーロ……。これは名前?」


『ハル・フワーロ』と刻印された文字。


 文字数やラストネームがあることから、名前ではないかと推測する。


 この名前がこの刀剣に与えられたものか、または刀剣の持ち主の名前なのかは不明だ。


 状況から察するに、青年の名前の可能性もあるが断言はできない。


 しかし、青年が『ハル・フワーロ』と口にしたとき、なにか心地の良いものを感じていた。


「いつまでも名無しではいられないし、僕の名前かどうかは分からないけど……、『ハル・フワーロ』と名乗ることにしようかな」


 いつまでも名無しでいると、何かと不便だ。だからといって適当な名前を付けるのも気が引ける。


 ならば、刃に刻印されている『ハル・フワーロ』と名乗ったほうが賢明だ。


 記憶を取り戻す手掛かりに一歩、近づいた瞬間だった。



 数体分のカラカラという音が聞こえてきたのだ。

 

 

 

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