第2話 魔力蓄積・付与

「なんで倒れないんだよ!」


 鋼の刃はスケルトンの胸部と捉え、攻撃は当たっている。敵に刃が当たると伝わる、小刻みな振動も彼自身が実感している。


 それからというもの、何度も攻撃をした。刀剣を自由自在に振るい連続で攻撃を当て続けた。


 しかし、彼の前に立つ魔物は倒せる気配をみせない。


 斬撃を与えても多少仰け反るだけ。


 致命傷には至らない。


 特殊な倒し方があるのか。それとも彼の力不足か。


 続く戦闘の中で思考を巡らせ、スケルトンを倒すための解決案を導き出そうとする。

 

(首をはねれば倒せる? いや、四肢を破壊して動きを封じれば弱点を探ることができるか? どうすればいい!)


 一度距離を取りつつ思考を巡らせ、知恵熱で脳内が温まってきたときだった――。

 

「——しまった!」


 そう言葉を口にしたときには、すでに後方へと倒れるように体が傾き始めていた。


 スケルトンから距離を離そうと後ろ向きで後方に移動したときに、泥に足を取られてしまったのだ。彼の体は後方へ倒れるように体勢を崩してしまう。


 後ろに倒れていく体。咄嗟に片足を後方へと伸ばし、すぐに体勢を立てなおす。


 しかし足の踏ん張りがきかず、元の体勢に戻ることができない。


 そして最悪な事に、スケルトンの攻撃が目の前まで迫っている。このままではスケルトンの攻撃で袈裟切りにされるのがオチだ。


 何も思い出すことのできていない彼は、自分のことを思い出すということを目標に根性でその場を乗り切ろうと体全身に力を入れた。


「そう簡単にやられてたまるかぁぁ!」


 彼は柄を力強く握り、胸の前で構える。そして、敵の刃が自身に迫った瞬間、刀剣を振るい、迫る刃を弾いた。


 カッキンッ!

 

 刃と刃がぶつかり合う音が響き、重なった部分からは火花が散る。


 攻撃を弾かれたスケルトンは、弾かれた勢いで大きく体を仰け反らせる。

 

 チャンスだと悟った青年は一度、大きくバックステップを行いスケルトンとの距離を取る。


「なんだろうこの感じ……。体の中で何かが溜まっていくような温かい感じ……」


 攻撃を弾いたときに感じた不思議な感覚。何かが体内で溜まっていく感じ。


 胸に手のひらを当て、体内で生じる違和感に意識を向ける。


 決して悪い感覚ではない。むしろ、力が沸き起こって何かが出来そうな感じだ。


 弾くことで何かを見いだせると感じた青年。


 攻撃を避けることをやめ、弾くことに専念してみることに。


 体勢を立て直し再び襲い掛かってくるスケルトン。考えなしに突撃してくる類の魔物は非常に戦いやすく、行動を予想しやすい。


 青年はスケルトンの攻撃を予測しタイミングを見計らって弾く。刃同士がぶつかり合うたびに、力が溜まっていく感覚。先ほどよりも、体内で大きくなっている。


 例えるなら、ツボの中に水が満たされていく感じだ。



 

 弾いて、弾いて、弾いて、弾いて、弾いて、弾く。




 体内で力が大きくなっていく。


 この力を利用すれば勝てることを願い、弾き続ける。


 しかし、彼にはこの力の使い方が分からなかった。


 再び思考を巡らせる。今度は、足元にも意識を向けながら。この溜まった力をどうすればよいのか。答えを導き出そうとした。




『溜まった魔力は放出して刀剣に付与しろ。そうすれば、お前でも魔物を倒せる』




 一瞬、脳裏に響く言葉。


「溜まった力、『魔力』……」


 助言とも捉えられるような記憶。過去に誰かから言われた言葉だろう。


 つまり、今の記憶は彼の能力を知った者が、力を使いこなすために助言した内容ではないか。彼はそう推測する。


 記憶に従い、体内の魔力に意識を向け放出を試みる。すると、刀剣に青く光る粒子のようなものが付与されていく。


「これでいいのか?」


 青いオーラのようなものを纏った刀剣。威力が上がり、強力な一撃を繰り出せそうだ。


 再度、襲い掛かってくるスケルトンは距離を詰め、剣を振り下ろす。


 青年は魔力が付与されたであろう刀剣を振るい攻撃を弾く。

 

 ガッギーンッ!


 刃が交わった瞬間、衝撃波が勃発する。


 周りの物を弾き飛ばすような威力を発した衝撃波は、スケルトンは大きく体を仰け反らせる。


 これは大きなチャンスだ。


 体内に溜まった魔力を放出し、再び刀剣に付与する。


 青年は魔力の付与された刀剣を力強く握り構えると、一刀両断のごとく、力を込めて横に刃を薙いだ。


「うおりゃぁーーーーーー!」


 怒気の籠った声と共に薙いだ一撃。空気をも裂く強烈な斬撃は、骨を砕く鋭い一撃だった。


 刀剣を振り切ったとき、スケルトンの体は弾けるように散った。

 

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