三十八話 始まりの合図 その2

簡単なあらすじ『サチエさんに協力するクボタさん。彼は町に戻ろうとしますがその時……』




魔王城の頂にて怪鳥、おザキ様が呟いた。


〝まさか、封印が解けたのか……?〟


彼は今、大変に喫驚していた。


それはこの国最強格の魔物としてはあるまじき様相となってしまう程にだ。


〝いや、魔王の気配はまだ……

ならこれは一体、何だと言うんだ……?


とにかく、動かねば!〟


彼は魔王城の中へと姿を消した。




ザキ地方に突然響き渡った、あまりにも大きな魔物の咆哮。


それを聞いた俺達は全身の力が抜けたようになり、暫く動く事が出来なかった。


「……!!あれは……!!」


漸く立ち上がれるようになったという頃、サチエが驚愕で声を震わせながらそう言った。


「……嘘だろ」


「まさか……本当に……!!」


そして、俺とコルリスはその意味をすぐに理解した。


……国境付近からまるで堰を切ったかのように、それを抜けて魔物達がこちらの国へと押し寄せて来るのが見えたのだ。




速度こそそれ程のものではないが、魔物達は着実にこちらへと向かいつつある。


そして、大軍は瞬く間に地平線を占領した。

右から左、何処を見ても魔物だらけだ……


奴等が何を目的としているのかなど知る由もないが、このままではこの町も、ひいては街も、国にも最悪の結末が訪れる事だけは確実だと言えるだろう。


しかし、サチエの恐れていた事がここまで早く現実になるとは思わなかった。


それもまさか、こんなにも沢山の魔物が……


勿論こうなった手前協力するつもりではあるが、流石にここまで敵が大量にいるとなると、今の俺達だけではどうする事も出来ないだろう……


どうしたら良いのだろうか……

そう考えていた時サチエと目が合った。


……彼の瞳の中には動揺があった。


どうやら彼も同じような気持ちでいるらしい。

それに気付いた俺は、ひとまず思い付いた事を彼に提案する。


「と、とにかく!!

今この事を知っているのは俺達だけだ!


急いで町にいる皆にこの事を知らせて避難してもらおう!どうするかはその後決めるんだ!」


「そ、そうだな!よし!

ではクボタ!コルリス!私は先に行くぞ!」


「分かった!!

コルリスちゃん、ケロ太郎、行こう!」


「はい!!」


俺達は町に駆け戻った。




どうにか町にいた者達の避難を完了させた後、俺達はサチエがいるかもしれないとジェリア、ナブスターさん、そして魔物達と共にひとまずあの丘へと戻って来た。


そこから見える、魔物達の大軍はやはり確実にこちらへと歩みを進めている。あと数時間もすれば奴等はこの町へとやって来る事だろう。


「嘘だとは思っていなかったけれど……

まさか、本当にこんな事があるなんて……」


「同感だ。僕も正直信じられないよ……」


それを見たジェリアとナブスターさんが呟くように言った。


二人はこの光景を目の当たりにはしていなかったのだ。そのような感想が漏れるのも仕方がない事に思う。


するとそんな時、背後に人の気配を感じた。


振り返るとそこにはサチエだけでなく、ダマレイさんや他のアトラン族達の姿もあった。


「クボタさん、それに皆さんも……

住民の避難を手伝って頂きありがとうございます。


さあ、皆さんは早くお逃げ下さい。

まだ定期便は動いているはずです」


そしてダマレイさんは頭を下げて言い。


「クボタ……やはり私達は戦う事に決めたよ。

生まれ育ったこの町を守るためにな……


だが、それは我々アトラン族の問題だ。

我々の勝手な決断に君達を巻き込むつもりは無い。


いや、巻き込みたくないんだ。

だから君達は早く逃げてくれ……間も無く、戦いが始まる」


サチエは俺の肩を掴み言った。


「そんな……!」


出来ればサチエ達も避難して欲しいと、出会った時はそう言おうと思っていたのだが……もう彼等は戦うと決めてしまったようだ。


しかし、いくらアトラン族とは言えあそこまでの多勢を相手にすれば……結末は見えていると言っても良い。


何か彼等を説得する良い材料は無いだろうか。


俺がそう悩んでいると、コルリスが声を上げた。


「皆さん!

せめて戦うのは、もう少しだけ待ってもらえませんか!?


さっき、この町の人達が言っていました!

街に着いたら必ずこの緊急事態を国に知らせるって!


だから、もう少ししたらきっと……きっと応援が来てくれるはずです!だからせめて、もう少しだけでも……!!」


コルリスは精一杯の大声を出し言った。


……!

知らなかった。


だが、良かった。

流石に国もこの事態には動かざるを得ないだろうし、彼女の言う通り応援は必ず来てくれるはずだ。


そして、そうとなればきっと彼等も考えを改めてくれる事だろう。


これもまた彼女の言う通り、もし本当に戦わなければならないのだとしても、それは援軍を待ってからの方が良いとな……


ただ、正直に言えば俺は皆に避難して欲しいのだが……まあ彼等の気持ちも分かるし、そもそも今は一大事だ。


戦いは避けられぬ可能性が高く、こればかりは仕方がない……の、かもしれない。


しかし、ダマレイさんとサチエは首を左右に振った。


それはつまり、その提案には乗らぬと言う事……彼等は頑なであったのだ。


『しかし、何故だ?援軍が来ると言うのに……』

そう思う俺の前で、ダマレイさんは語り出した。


「私達の身を案じてくれているのですね……ありがとうございます。


ですが、それは出来ぬのです。

確かに、援軍を待てば奴等に勝利出来るかもしれません……しかし。


恐らくそれを待つ間に、この町は奴等の手によって全て壊されてしまう事でしょう。


なら、私達はそれを止めるべく今戦います。

……そのために、私達はここに残ったのですから」


ダマレイさんはそう言い終えると軽く頭を下げて微笑み、そして迫り来る魔物達へと向けて歩き出した。


サチエや、他のアトラン族達も彼の後に続く……


「待って下さい!!


ダマレイさんの気持ちは分かります!!でも……!!」


俺は何度も彼等を止めるべく叫んだ。


だが、それでもアトラン族達が歩みを止める事は無かった……




もう、彼等を止める事は出来ないのだろうか……?

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