三十七話 始まりの合図
簡単なあらすじ『魔王達は動き始めてしまいました……一方、クボタさん達はアトラン族の町でサチエさんを探しています』
なかなかサチエを発見する事が出来ずにいた俺達は、今度は魔王城が一望出来る、町外れにある丘へと向かう事にした。
そこに彼はいるだろうか……?
むしろ、もう探していないのはその場所くらいだから、そこにいてくれないと困るのだが……
とにかく、俺達は丘へと向かった。
すると、そこには……探し人である彼がいた。
良かった。漸く見つける事が出来た。
俺とコルリス、ケロ太郎はこちらに背を向けて立つサチエへと近付く。
彼は今、魔王城よりも少し西の方角……
我が国と他国の国境付近に注目しているようだった。
「サチエさ〜ん!」
コルリスがニコニコとしながらサチエに呼び掛ける。
そこで初めて、彼は俺達の存在に気が付いたようだった。
「ん?……おや、コルリスじゃないか!
久し振りだな……いや、そうでもないか!
それにクボタも!
今日は何をしに来たんだ?」
「やあサチエ。今日はこの前受けた討伐依頼をやりに来たんだ」
「ジェリアちゃんとナブスターさんもいるんですよ!」
俺達は彼の質問に答える。
その後で勧誘を……
と、思っていたのだが。
そこでサチエの顔が曇った。
「サチエさん?」
「サチエ?どうかしたの?」
「…………クボタ。コルリス。
今日はやめておいた方が良いと思う」
すると、サチエはそんな事を言った。
……何故今日に限ってそんな反応なのだろう?
今日だと何か問題でもあるのだろうか?
「え?」
「それは、どうして?」
「……この方角から、強く臭うんだ。
大勢の魔物が寄り集まっているような、魔物達の強い臭いがな」
俺とコルリスが頭上に疑問符を浮かべて聞くと、サチエは先程自身が目を向けていた、国境付近を指差しながらそう答えた。
「……何か、良くない事が起こるかもしれない。
だから二人共、悪い事は言わない。今日はやめておくんだ……出来ればそのまま、早く家に帰った方が良いぞ」
続けて彼は言う。
……もしかすると、これはおザキ様の言っていた事とも何か関係があるのかもしれない。
最近、国境を越えようとする魔物が多いらしいからな……それに加えて、今やアトラン族の代表的な人物となっている者も似たような事を言っているのだ。
だから恐らく、その予感は現実となる可能性が高いと言えるだろう。
しかし、だとしたら……サチエは。
俺は口を開いた。
「……サチエ。
もし仮に、君の言う良くない事が現実になったとして、俺達は逃げれば良いけど……
君は、どうするんだい?」
「……良くない事。
考えられるものとして一番可能性が高いのは、『魔物の大群がこの町に押し寄せて来る事』だろうな。
もし、それが現実となれば……勿論私は戦うさ。
例え相手が多勢でも、それに敵わずともだ。
この町を守るためならば」
サチエは即答した。
そして、その答えは俺の予想通りなものであった。
やはり、サチエにはもし仮に何かが起こったのだとしても、端から逃げるという選択肢は用意されていなかったのだ。
まあ、この場所は彼の生まれ故郷……その気持ちは充分に分かる。
だがそれで、彼に何かあっては……
このまま彼を、この町を見捨てて、みすみす逃げ出すような真似はしたくない。
俺はある事を提案するため、再び口を開いた。
「やっぱり。そう言うと思ったよ。
なら、もし本当に何かが起こった時は、俺にも協力させて欲し」
「ダメだ!!!
あの辺りは強い魔物達の巣窟となっているんだぞ!!そんな魔物達と戦おうだなんて無茶が過ぎる!!
……怒鳴ってすまなかったな。
もう一度言うぞクボタ。コルリス。
今日は討伐依頼などやめて早く家に帰るんだ。
……いや、そうしてくれ。私からの頼みだ」
俺の言葉はサチエによって掻き消された。
彼が俺達の事を心配してそう言ってくれているのは分かっていた。
だが、それは俺達も同じなのだ。
俺だって彼が危険な目に遭うのは嫌だ……しかもそれが、彼だけなのはもっと嫌だ。
「そうやって俺達を帰して……何かあった時は一人でそれに立ち向かうつもりなんだろう?
……なら無茶が過ぎるのはサチエだって同じだよ!!
俺はそうだと分かっていてここを離れるつもりは無い!!
……サチエが俺達の事を心配してそう言ってくれてるのは分かってる。
でも、それは俺も同じなんだ!君が心配なんだよ!
だから頼む、俺にも協力させてくれ!」
俺も負けじと叫ぶように言った。
……我が事ながら、少し興奮し過ぎていたかもしれない。
「まあまあ二人共、落ち着いてください。
でも……私もクボタさんの意見に賛成です。
私もサチエさんを置いて逃げるような事は出来ません。
もし本当に何か起こったとしても、対処するなら人数が多い方が良いですよ。サチエさんもそう思いませんか……?」
そんな俺達をコルリスが宥める。
そして、俺に賛成だと言う事も言葉で示してくれた。
「……まあ、私も君達がそう言うのは分かっていた。
…………では。
…………まだどうなるか分からないが、その時は協力してもらえると助かる」
それを聞き、サチエは漸く首を縦に振ってくれた。
自身の口で俺達に助けを求めてくれたのだ。
……嬉しかった。
サチエが自ずから手を伸ばしてくれる事を、俺は待っていたのだから。
そしてその手を掴み、掬い上げる準備も既に出来ていたのだから。
「勿論、そうさせてもらうよ。
じゃあジェリアちゃんとナブスターさんにも……」
そうと決まれば行動は早い方が良い。
俺はここにいない二人にも事情を説明するため町の方に戻ろうとしていた。
しかし、そうする事は出来なかった。
その時突然にもこの地に、あまりにも大きな魔物の咆哮が響き渡るのを聞いたのだから……
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