三十六話 六人目の刺客

簡単なあらすじ『魔王、三竜、クリークの五人……五匹は、魔王の身体を取り戻すためとうとう出発するようです……』




魔王が三竜、クリークへと号令を掛ける。

五匹は今、人々の住む街へと向けて出発せんとしていた。


しかし、ジャハルーク、ドフィアーク、ネルヤークの三竜はあまり気が進まないらしく、その動きは緩慢であった。


そしてそれは、彼等の中に大きな、ある懸念に近い感情があったから……


それかもしくは、憂懼ゆうくとでも言うべきだろうか……とにかく、そんな感情が彼等の中にはあった。


〝なあ、待ってくれ兄さん〟


「何だドフィアーク?まだ何かあるのか?」


そのためにドフィアークが魔王へと言い、魔王は聞き返す。


角の欠けた竜は、何を言うのだろうか。




少し逡巡するかのような様子を見せた後に、ドフィアークは語り出した。


〝……兄さんの身体。

今のオレ達だけで取り返せるものなのか?


兄さんと……そこの、相棒だったか?

それとオレ達。多分、今はそれくらいしか兄さんについてる魔物はいないんだろう?


それに兄さんはそんな姿だし、オレ達は『あの時』の傷がまだ完全に癒えた訳じゃあない……今のままだとオレ達、また『アイツら』にやられちまうだけな気がするんだ。


いや、それだけならまだ良いが、次は死ぬかもしれない……なあ、兄さんもそう思わないか?〟


ドフィアークが言い終えると、ジャハルーク、ネルヤークの二匹もその後で魔王に頷いて見せた。


どうやら三竜は自陣営が現在持つ戦力、そして敵対する者の存在……それが気掛かりであり、かつ三匹全員がその考えを共有していたようだ。


……確かに、彼等は皆が敵対する者達に敗北した事によって魔王は身体を、三竜はその存在自体を封じられていたのだ。


それが今は大勢いたはずの手下達すらもいないとなれば、不安がるのも無理はないはず。


……にも関わらず、それを聞いた魔王は高笑いを遺跡に響かせるのだった。




「…………アッハッハッハッハ!!

何だお前ら、なかなか動かねぇと思ってたらんな事にビビってたのか!!


アッハッハッハッハ!!」


そう言って再び高笑いを始める魔王に、三竜は戸惑いを露わにした。


〝そんな事って、兄さん……〟


もしかすると、兄さんは封印された衝撃でおかしくなってしまったのではないだろうか。


そう思っていたのはネルヤークだった。

自身の戸惑いを言葉にして見せたのも彼だ。


すると、それを聞いた魔王はすぐに高笑いをやめ、その表情を冷たいものへと上書きし、尾の切れた竜にこう答えてみせた。


「……自分で言うのも何だが、オレだって馬鹿じゃあねえ。それくらい分かってるさ。


ああ、多分……いや絶対無理だろうな。

今のままじゃ俺達は、またアイツらにやられちまうはずだ。


今のままなら、な……だが安心しろ。


今回は〝強力な助っ人〟を呼んであるからよ。しかもソイツはもうそろそろ動き始めるはずだ。


それにな。オレはお前達が眠っている間、この国を飛び回って色々と調べていたんだが……どうやら、アイツらも殆どが封印されているみたいなんだ。


しかも今の所はまだ、目覚める気配はねぇ……

だから心配は要らねえんだよ。


分かったらいい加減に出発するぞ!良いなお前達!」


そう言い、魔王は宙に浮かび上がる。


それを見た三竜は未だ残る困惑を胸に抱きつつも、操られているような状態のクリークは何一つ迷い無く、彼について行く事を決め空に舞い上がった。


〝ところで兄さん、その助っ人って言うのはどんな奴なんだ?〟


「ん?ああ、その事か。


それはな…………」




再び場面は変わり、視点はザキ地方にあるアトラン族の町へと移る。


そこにはクボタ達の姿があった。




ヴルヴルでの移動を終え、街からザキ地方へと辿り着いた俺達一行は今、アトラン族の町に到着した。


そこで少し休憩を取った後、依頼を始めるつもりだ。


ちなみに、休憩を取る理由を一応言っておくと……


定員、と言うか重量オーバーとなるため魔物の背に乗る事が出来ず、その後ろを自走する事となったエリマ、チビちゃん、ミドルスライムの体力を回復させてやらねばならないからだ……


だが、これで良かったのだと思う。


これがあるお陰でサチエをアライアンスに勧誘する時間が出来たのだからな。


……良し。

そう言うワケだからさっさと彼を見つけて、スカウトを始めなければ……俺は町を彷徨き始めた。


「クボタさん!私もついて行って良いですか?」


背後から俺に声を掛けてきたのはコルリスだった。


彼女は小走りで俺へと近付き、その横に並ぶ。

そしてケロ太郎も付いて来るようで、俺達の背後からぼよんぼよんと肉を揺らしながら迫っていた。


もう付いて来てるじゃん……

という言葉は呑み込み、俺は快諾する。


「勿論。でも、サチエを探すだけだよ?」


「良いんです、私も久し振りにこの町を色々見て回りたくなったので!」


「そっか……そう言えば、他の魔物達は?」


「皆はジェリアちゃんとナブスターさんについて行きました。だから心配は要りませんよ!」


と言う事で、サチエ捜索隊は二人と一匹になった。




サチエ捜索隊である俺とコルリス、ケロ太郎は町中をひたすらに歩き続ける。


まだ彼は発見されていなかった。

彼とダマレイさんの自宅、その他色々な場所を探したのだが、何処にも姿が見当たらないのだ。


そうしているうち、色々な店の並ぶ区域ではジェリアを、町外れではナブスターさんを発見した。


ジェリアはミドルスライム、チビちゃん、ケロ太、プチ男を連れてお買い物の最中のようだ……ただしチビちゃんだけはやっぱりデカ過ぎるためか、その入り口で待たされていたが。


どうやら彼女はスライム達からの人望……スライム望?まあどっちでも良いや。それが厚いようだな。


いや、スライム好きの彼女の事だから、もしかすると無理矢理連れて来ただけなのかもしれないが。


そしてナブスターさんはと言うと、上記した奴等以外の魔物とアトラン族の子供達とが遊んでいるのを随分と優しい眼差しで眺めていた。


何だか、保育士のようだな……俺は思う。


ちなみに、二人にもサチエを捜索する旨は既に伝えてある。だから託児をさせて申し訳ないとは思いつつも、俺達は二人の保育士をそのままにして街歩きを続行した。




それから暫くして……


未だにサチエを見つけられない俺達は、最後に魔王城が一望出来る、町外れにある丘へと向かう事にした。


もう探していないのはそこぐらいだからな。

むしろ、そこにいないのだとしたら何処にいると言うのか……


とにかく、俺達は丘へと向かった。

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