三十五話 五人目の刺客

簡単なあらすじ『魔王の部下である三竜が復活してしまいました……!!』




もう間も無く魔王は復活を果たし、この国では再び大戦が勃発してしまう……のかもしれない。


操られたニブリックと三竜。

今それらが魔王の封印を解くため、動き出そうとしているのだから……




三竜と魔王が動き出そうとしていたその時突然。


目を覚ましたらしきクリークが地の底から這い出て来たかのような動きで、やおらゆっくりと起き上がった。


しかし。開かれたその目は普段とは違い鮮血が如く、赤く赤く染まっていた……


そして、喉の奥底からは重い扉が開かれる時のような低く、重厚なる音が鳴り、鼻息は興奮しているのか非常に荒く、そして熱く、熱風として外界へと送り出されていた。


……今のクリークはまるで、野に生きる獣のようであった。


先程までとは何もかもが異なり、凶暴そうな様子でいる彼は知性と言うものが欠落しているようにさえ見えてしまう。


もしそうであればそれは正真正銘、けだものと同じである。一体、彼の身に何が起こったと言うのだろうか?


……そんな時、クリークを見て魔王が言った。


「お!そっか相棒、お前もいたんだったな!

どうだ?オレの言う事を聞く気になったか?」


それを聞き、クリークが声の主である魔王に目を向けた。


その顔はやはりと言うべきか、依然として捕食者側のものをしている。


また、彼は魔王を屠るべく動き出すのだろうか……?


〝何だアイツ……?

ジャハルーク、ドフィアーク。止めるか?〟


それを見、尾の欠けた竜ネルヤークが言った。


彼も兄弟とは違う竜が今何をしようとしているのか、ある程度予測した上でそう発言したのだろう。


勿論、悪い方向にだ。


だが二匹の竜は平然とした様子でネルヤークに言う。


〝その必要は無い。

例え本当に、アレが兄さんに攻撃したとしてもな〟


〝ジャハルークの言う通りだ……でも〟


すると、クリークが動いた。


……彼等の言う事は正しかったようだ。


野獣と化したクリークが魔王に攻撃を仕掛ける事は無く、それどころか彼は次の瞬間、倒すべき存在であったはずの魔王へと向けて首を垂らしたのだから。


「良し良し。素直になったな!

ま、俺の魔力を入れたんだから当然なんだが」


魔王はそんな竜の頭を撫でながら言った。


少し前、クリークが気絶した直後彼は確かに、『オレの魔力を分けてやった』などと話していた……


なるほど、どうやらクリークに起きた異変はそれが原因であったらしい。


そして、ドフィアークとジャハルークはそれに気が付いていたのだ。だからこそ彼等は落ち着きを保ち、その場を動こうとしなかったのである。


「それは良いとして……おいドフィアーク。

お前最後何か言おうとしてたろ。何だ?」


魔王は続けて言った。


どうやら角の欠けた竜、ドフィアークが最後に何か言い淀んでいた事に彼も気が付いていたようだ。


それを聞き、ドフィアークは何処か不満げな、それとも納得のいかぬような……とにかく、そんなような表情で話し始めた。


〝いや、別に大した事じゃないんだ。


ただ、兄さんが魔力でソイツを手懐けたのには気付いていたけど……何でそんな弱い奴を選んだのかぁと思ってさ〟


「特に理由なんかねぇよ。

オレはコイツが気に入ったんだ。それだけだ。


じゃあ……顔触れが増えた所で、今度こそオレの身体を取り戻すために出発すっか。


よしお前ら、街に向かうぞ!!」


魔王はそう答えた後で、再び出発を宣言した。




だが、出発を宣言されても尚、三竜の動きは緩慢であった。


三匹全員の中に、懸念に近い感情があったからだ。


そして、それは余りにも大きかった。

解消されなければ決して彼等は本来の振る舞いを取り戻す事は無いであろうというくらいには。


〝なあ、待ってくれ兄さん〟


角の欠けた竜、ドフィアークが言った。

再び蘇る事は無いだろう、失った剣先の根本にある表情からは恐怖のようなものが垣間見える。


もしかすると彼の中にあったものは懸念ではなく、憂懼ゆうくだったのかもしれない。


「何だドフィアーク?まだ何かあるのか?」


そう聞く魔王に対して、竜はこう答えた……

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