三十四話 四匹のドラゴン

簡単なあらすじ『赤く光る球体……それは……魔王……』




〝……なら、私は。


私は……


ウォオオオオ!!!

何て事をしてしまったんだぁああああ!!!〟




クリークの嘆きはまるで閃光のような速度で遺跡の中を駆け巡った。


それ程までにクリークの後悔は強いものであったのだ。


何せ、彼のした行動は自らの手で魔王の手下を復活させたも同義であり……


それすなわち。

再び大戦が起こるきっかけとなるであろうという事は、容易に推測出来てしまうのだから。


……だが、彼の悲劇はこれだけに収まらなかった。


〝……ん?〟


〝……俺達は〟


〝……再び目覚める事が出来たのか〟


皮肉な事にクリークのその絶叫にも近い叫びにより、三匹のドラゴンはそれを足掛かりとして現実へと辿り着いてしまったのだ……




「どうした相棒?そんな大声出して」


竜の咆哮を聞いても尚、魔王は表情を変えずにそう言う。


〝ウォオオオオ!!〟


次の瞬間、クリークは魔王、三竜へと駆け出した。


再び大戦を起こさぬため。

この地に、この国に血の雨を降らせぬため。

……そして、自身の犯した罪を償うため。


魔王とその手下共を屠るべく彼はそれへと飛び込んで行ったのだ。


……それは主人を殺めるも同じ。

素直に言えばそんな事、出来るかも分からない。


ましてや相手は魔王とその右腕達、傷を与える事さえ出来るかどうか……まさに暴虎馮河の勇である。


だが、そんな事など分かっていた。

それでも尚クリークは向かって行ったのだ……


『例えそれが無理なのだとしても、今魔王を止める事が出来るのは自分しかいない』


もしかするとそのように、彼は思っていたのかもしれない……




それはあまりにも早い決着であった。


クリークの突撃はまるでそれが風に漂う羽虫か何かであるように、真正面から魔王に受け止められてしまい、そして彼の掌から魔力を体内に流し込まれ。


一瞬にして地に伏すという……

呆気なくもそのような結果に終わってしまったのだ。


「まさか、『この身体』でも向かって来るとは思わなかったぜ。大事な主人を殺してでもオレを止めたかったのか?


まあ、その根性だけは褒めてやるよ。

だがお前じゃ力不足だ。そんなんじゃオレは倒せねえ。


でも相棒。安心しろ。

お前を殺しはしねぇ……お前にはまだ、オレの用心棒をしてもらわなくちゃならねえからな。


ただし、そうするにはもうちっと従順になってもらわねえと」


ぐったりとしているクリークに向けて魔王は言った。


その後、彼は手負いの竜に再び触れる。

すると、突然にもクリークが苦しみ始めた。


〝グァアアア!!

ア……ァ……〟


そして数秒後、クリークの意識は一時的に彼の体を離脱する……


「もう少しオレの魔力をお前に分けてやった。


これで次からはオレの言う事、大人しく聞けるようになるだろうぜ……じゃ、今は眠ってな」


それを見た魔王は竜の体から手を離し、呟く。


そして次に、魔王は三竜へと近付いて行った。




目覚めたとは言え、まだ半睡のような状態でいる三竜の前に立ち、魔王はこう叫んだ。


「おい!!


ジャハルーク!!

ドフィアーク!!

ネルヤーク!!


封印はもう解けてるんだぞ!!

いい加減目を覚ませ!!」


彼は右の竜から順にその名を呼び、完全なる覚醒を促す。


そこから察するに。


右目に大きな傷があるのがジャハルーク。

欠けた角を持つのがドフィアーク。

尾が切れているのがネルヤークであるようだ。


しかし、その声を聞いた三竜は何故か、珍しい物でも映しているかのような瞳で魔王を見遣る。


いや、彼の姿形は今、ただの人でしか無いのだ。

いくらそれが魔王だったとは言え、初見であった彼等がそうしたのはむしろ当然至極の事だと言えよう。


「お前らまさか、オレが誰だか分からねぇとでも言うんじゃねえだろうな?」


三竜の反応を見、魔王はこう続けた。


すると漸く、そのうちの一匹であるジャハルークが片目をぱちくりとさせて答えた。


〝…………兄さんか。

姿が人間だから全然気が付かなかった〟


それに続いてドフィアーク、ネルヤークが言う。


〝ああ……その口調は確かに兄さんだ〟


〝だが、何故そんな姿なんだ?

兄さんの封印はまだ解けていないのか?〟


「ああ、その通りだ。

それをどうにかするためにまずお前らの封印を解いたんだからな!


分かったらさっさと準備しろ!!」


彼等の問いに魔王は再び口を開いた。


そしてその言葉は、三竜の身に完全なる覚醒をもたらすのだった。




時は、この国の未来は今。

平和とは真逆へと向けて動き出そうとしている……

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