三十三話 三匹のドラゴン
簡単なあらすじ『クボタさん達はザキ地方へ!ニブリック(魔物)とクリークは何処かへ……』
二匹の魔物が歩みを進め、辿り着いたのは。
その地の北端であり、巨大な遺跡のようなものがある場所だった。
その遺跡のようなものとは円蓋のような形状をした石造りの建造物であり。外観は植物に覆われ、年月に晒され、人目からは隠され……
そうして薄汚れてはいたが朽ちてはおらず、中に何か重要なものが眠らされているのはその雰囲気ですぐに分かるような代物であった。
「良し良し。ちゃんと着いたな。ご苦労だったぜ相棒」
遺跡にある、扉の前にまでやって来た魔物は言う。
その後ろにいるクリークは無言のまま、やはり不服そうな顔をしていた。
「……チッ、やっぱ封印が施されてんな。
じゃあ相棒、ちっと離れてな」
〝……何をする気だ?〟
「ぶっ壊すんだよ!!『
魔物はそう言うと両手を前に突き出し、強大な炎魔法を放つ。それによって扉はまるで
……それは本物の塵埃となり、一時重力を忘れ。
二匹の頭上を舞い踊り、そして降り掛かる。
「良いな、やっぱ。器があると本気が出せる」
それを払い除けつつ、魔物は遺跡の中へと入り込んで行った。
急いでクリークも後を追う。
〝……!!
これは、一体……!!〟
そしてすぐに、そこにあったものを目にしたドラゴンは驚愕する事となった。
クリークの前にあったもの。
遺跡の中にあったもの。
それは…………自身より二回り程も大きな、黒色の巨躯を持つ三匹の雄のドラゴンであった。
しかし、そのドラゴン達は三匹全てが翠色の粘液のようなものに覆われ目を閉じ、ひたすらに眠っている……
いや、先程の魔物の発言から察するに、これもまた封印と言うものなのだろうか。
「良し良し。皆いる……やっぱりここで正解だったな。身体の無い時に探し続けた甲斐があったぜ」
しかし、魔物はそれに驚く事も無く。
むしろ喜んでいるような風で、ドラゴン達へと近付いて行くとその粘液のようなものを毟り取り始めた。
〝おい!お前、一体それをどうするつもりだ?〟
「見りゃ分かんだろ、こいつを取っ払って、兄弟達を起こすんだよ。
……ったく!全然取れねぇな。
おい相棒!お前も手伝え!」
クリークの問いに魔物は背を向けたまま答える。
……どうやらこの魔物は、三匹の竜の覚醒を目的としてここにやって来たようだ。
しかし、クリークは動けなかった。
動かないのでなく、動けなかったのだ。
魔物の言った、『兄弟達』という言葉。
それが耳に響き、内部へと浸透してゆく毎に。
脳が〝ある事〟を察し、そして予感させられた精神が、肉体が……そうする事を拒んでいたのだから……
「さっきから何やってんだお前?良いからさっさと手伝えよ」
魔物はそんなクリークに苛立っているのか、語気を強めて言った。
〝お前……まさか……〟
だが、今のクリークにはそれを気にする余裕はなかった。〝ある事〟を予感し、動けずにいたのだから。
「クソ!全っ然取れねぇ……こうなりゃまた魔法でやっちまうか。
ああ、そうしよう。
そんなんで流石に死にやしねぇだろ、兄弟達なら。
『
そこで苛立ちが限界に達したのか、魔物は三匹の竜……彼等を覆っているものへと先程と同じ魔法をぶつけた。
それを魔法で燃やし尽くしてしまおうという腹積りでいるのだろう……すると。
その目論見通り彼等を覆っていた膜のようなものはすっかりと取り払われ、それからすぐに柔靭なる
そうして解放された、三匹の黒く巨大なドラゴン。
彼等は誰が見ても……魔物であると同時に、非常に勇猛果敢な戦士達……
いや、猛者共だと言う事は明らかだった。
彼等が皆有している、歴戦の証と言う名の、『その身を埋め尽くす程に刻まれた傷跡達』がそれを教えてくれたのだ。
しかも、そのうちの一匹は傷が片目を這い。もう一匹は角が折れ。更にもう一匹は尾を切られたのか、それが二匹の半分程の長さしか無い。
それらがもう機能しない事はすぐに理解出来た。
……が、だとしてもこのドラゴン達はこの国に生きる殆どの生物達を軽く一捻りにしてしまえる事だろう。
三匹がそれ程の強さである事もまた、火を見るよりも明らかであった。
そう、その姿を見れば……
……そして、彼等の姿がよりはっきりと見えるようになった今、クリークの中にあった予感は確信となった。
無数の傷を持つ三匹の雄竜……彼はそれに聞き覚えがあったのだ。
それは過去に起きたという大戦にて、この国を自らのものとするため現れた魔王の右腕とも呼べるような存在だったのだと言う……
まだクリークが幼く、ニブリックとも出会っていないような頃。
他のドラゴンが一族の中から同じようなものが出ぬようにと、戒める事を目的として聞かせてくれたのがそのような、過去にあった大きな戦いと、その三匹の竜についての話だった。
そして恐らく……
その話に出て来たドラゴンとは、今目の前にいる彼等だと見て間違いは無いだろう。
だとすると、そんな魔物をごく当たり前のように〝兄弟〟と呼べるあの魔物は。
あの、魔物は…………
〝まさかお前は…………魔王だったのか!?〟
叫ぶように言うクリークの声を聞き。
「……何だ。今更気付いたのかよ?」
魔物……いや、魔王は。
片側の口角を上げてニヤリと笑い、そう返すのだった。
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