三十話 木陰に光る球体

簡単なあらすじ『ニブリックが魔物と合体……?』




ロフターの一件があってから2日後。

俺達は相も変わらず練習漬けの日々を送っていた。


ただし今日は浅漬け……ではなく軽い、あまり体に負担をかけないようなメニューにしているぞ。


それもそのはず、明日はザキ地方へと討伐依頼をやりに行くのだからな。こんな所で怪我など出来ないのだ。


そこからも分かるように、あの後ジェリアを無理矢理連れて集会所兼酒場へと戻り、依頼を引き受ける事に俺は成功(?)した。


勿論、ナブスターさんにもそれは報告済みだ。


それどころか彼はもう我が家にて遠出の準備までもを既に済ませており、明日は朝早くに俺とコルリス、そして彼を含めた三人でここから街へと出発する予定なのである。つまり、彼はお泊まりするのである。


そんなナブスターさんは当然今も家にいて、コルリス、それと急に現れたジェリアと一緒に討伐の計画を立てると言って台所でお喋りしているぞ。


……もしかしたらジェリアもお泊まりして、全員でこの家から出発、となるかもしれないな。


しかし……家からは談笑でもしているかのような、楽しげな声が聞こえてくるのが少し気になる。


ちゃんと計画を立てているんだろうな……?


まあ良いや。

魔物達と共に練習している会議不参加の俺がそれについての文句を言ったりしたら、皆から大バッシングを受けるだろうからどうせ何も言えないのだし。


というワケで一人外にいた俺は家から届く弾んだ声には聞こえないフリをし、木陰で休憩を取る事とした。


「お前達も休憩だ!休憩しよう!」


魔物達にも声を掛ける。

すぐに彼等は続々と木陰に集まって来た。


「むむぁ」


すると思いの外疲れていたのか、暫くするとルーとアルワヒネが夢の中へと旅立ってしまった。


ああ、コイツらはしゃいでたから疲れたんだろうな……多分、普段の練習よりもずっと。


「……全く、遠足に行くワケじゃないんだぞ」


とは思いつつも無理に起こすのは可哀想なのでそうはせずに、俺はその可愛い寝顔を眺めながら、ケロ太郎のひんやりとした肉体を保冷剤代わりに涼をとっていた。


「クボタさ〜ん。クボタさ〜ん」


その時だった。

俺を呼ぶ、家にいる誰のものでも無い声を聞いたのは。




〝ねえクボタ。あれって、あの人じゃない?〟


エリマが言う。


だが、そう言われても主語が『あれ』だの『あの』だのばかりだから全然分からない……


のが普通だろうが、俺にははっきりと分かっていた。それが誰なのかと言う事を。


「クボタさ〜ん。こっちですよクボタさ〜ん」


それは自称神様だった。

やはりアイツ、城から外に出ていたのか。


神を自称する球体は家から少し離れた所にある、また別の木陰から俺の名を呼び続けている。


「お前達、俺はちょっと席を外す……分かんないかな?


……一旦いなくなるからさ、好きにしてて良いぞ。

練習続けてても良いし。でも本気でやり合うのはダメだからな?」


〝は〜い〟


俺は魔物達にそう伝えた後、立ち上がって球体のいる木陰へと近づいて行った。


「クボタさん!お元気そうで


……ぐぇ!!」


そうして球体の間近にまでやって来た俺は、すぐさまそれを鷲掴みにしてじっくりと観察してみた。


(……いやでも。アイツは確か…………)


そう思っていたがやはりそうだ。

コイツ青色をしている。赤ではなく青色だ。


だとすると最近街の近辺でよく見かけられるという、赤く光る球体ヒトダマシとコイツとは別物なのか。


しかし、姿が似過ぎているし……無関係とも思えないのだが……


そう考えていた時、自称神様が俺の掌から脱出した。


「酷いですよ!いきなり何するんですか!?」


「ああ、ゴメンゴメン。ちょっと気になってさ。

……お前、ここに来る前街の周辺を彷徨うろついてたりした?」


「いえ、してませんけど……

どうしてそんな事を聞くんですか?」


自称神様は首の代わりに体全体を傾けるように動かしてそう言った。


「……確かに、本人に聞くのが一番手っ取り早いか。

それなんだけどさ……」


という事で俺は目の前の球体に、街で聞いた話の内容を伝えるのだった。




「なるほど。そういう話が街で……

いえ、さっきも言いましたけどそれは僕じゃないです。


あ、ヒトダマシも僕じゃないですよ!

だって僕、そもそも人に見られるようなヘマはしないですもん!」


(本当かよ……)


それはともかく。

自称神様の話によると……


やはり街の近辺にいたという魔物とコイツとは関係無いようで、加えてコイツは『青色ヒトダマシ』とかでも何でもないし、つまりはヒトダマシとコイツもまた無関係な存在であるのだそうだ。


「ふーん、姿が似てるからもしや、と思ったけど違うのか」


「はい、違いますよ。

と言うか僕と似てる魔物自体、他に見た事ないんですよね。


しかもそれが、街の近くに現れただなんて……もしかして、アレと何か関係があるのかも」


「ん?アレって?」


「ああ、それはですね……

その前に言っておくと、僕がここに来たのはこの話をするためだったんですよ。


……クボタさん。

今からちょっと真面目な話をするんで、ちゃんと聞いてて下さいね?」


そういうと、珍しく神妙な顔……顔は無いか。


もとい、珍しく神妙な態度となった自称神様は話し始めた……

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