百三十五話 VSキングさん! その4

簡単なあらすじ『スライム達の心境を知ったクボタさん。ですが……』




全てではないがプチ男とケロ太の心境を理解した俺は二匹の緊張を解きほぐすように優しく彼等を撫でた。


その直後、背後から何かが衝突し、崩れるような、そんな大きな音が聞こえてきた。


それを耳にして振り返ると……


エリマとルーが地に伏しているのが見えた。




地に伏しているルーとエリマ……

彼等はピクリとも動かない。


先程まで激しく動いていたと言うのに。

まさか、死…………


魔物達のそんな様子を見た途端、そのような考えが脳裏に浮かび、湧き上がる恐怖に襲われた俺は二匹の名前を大声で叫んだ。


「ルー!!!エリマ!!!」


だが、反応は無かった。

突如として冷たい汗が頬を伝う。


「心配要りません。彼等は気絶しているだけですよ」


すると彼等に代わり、キングさんが俺にそう告げた。

彼が上方から降りて来、また無音で着地するのが見える。


それを聞いてひとまず安心、はしたものの。


『二匹が死んでしまった』

という錯覚により湧き上がってきた恐怖……その感覚を俺の心臓はまだ忘れられないようで、暫くの間鼓動は激しいままであった。


「…………さて、クボタさん。

どういたしましょう?まだ続けますかな?」


俺が少し落ち着いたのを見計らった後で、キングさんは次にそう言った。


その口調に不快さは感じなかった。

だからそう、今の発言は挑発などではなく、ただ単に……


『ルーとエリマという、言わばエース達が倒されてしまった今、お前はそこに、そんな状態でいるプチスライム達でまだこの試合を続けるのか?……いや、続けられるのか?』


そう言いたいだけなのだろう。


だが、それには答えられなかった。


戦うかどうか。

戦えるかどうか。


それは俺だけで決められるものではなかったから……




すると、俺と時を同じくして二匹が倒れているのを目撃したのであろう、スライム達の震えがぴたりと止まった……かと思えば、彼等は先程以上に激しく震え出した。


どうやら、ルーとエリマのあんな姿を見せつけられた二匹は更に戦意を喪失……いや、また震えが止まった。


コイツらは一体どうしてしまったんだろう?

やはり恐怖からそのような事をしているのだろうか?それとも、今のようになっているのには何かそれ以外の原因があるのだろうか?


彼等の異様な状態に俺は動揺してしまった。


「ほう、それでもやると言うのですね。

そのような状態でも尚……


……突き動かすのは仲間の存在。

さしずめ、これは仇討ちと言った所でしょうか……

良いでしょう。かかって来なさい」


だが、それを見たキングさんには彼等の行動の意味が理解出来たらしく、彼は何処か感慨深い気持ちであるかのような口調でそう言った。


その直後、今までは石像のようでいたプチ男とケロ太が……何と動き出した。


ワケが分からず見ているだけしか出来ない俺の前で、二匹はぷるぷると揺れながらキングさんの方へと近付く。


確か、キングさんは仇討ちと言ったか。


ならコイツらは、ルーとエリマが倒されてしまったのを見、その怒りで遂に彼と戦う覚悟を決めた……それが本当ならばこう言う事になる。


「……お前ら、本当にそうなのか?

いや……それは、今聞く事じゃないな。


お前ら……本当に、大丈夫なのか?戦えるのか?」


だが、先程まで二匹は震えていたのだ。

そんな状態だった彼等が、その怯えさせられていた相手であるキングさんと今すぐに戦えるような心の準備が出来ているとはとても思えない。


最悪、彼等が無理にそうしているのならば。

彼等が今そうしている事に強い恐怖、それか苦痛を感じているのならば。


ここで負けを認め、試合をやめてしまっても構わない……魔物に無茶をさせるためにいるのではない。


コルリスのため。魔物達のため。ひいては彼等と日々を共にするために、〝今の俺〟は存在しているのだ。


それを守るためならば、昇格なんて、試合なんて、そんなものはどうだって良い。


そのように考えた上で、俺は二匹に聞いた。


しかし、そんな俺に対して二匹は……

同時にぷるりと縦方向に揺れ、『覚悟は出来ている』と即答したのだった。


「……!分かった。

なら、俺も全力でサポートする。


行くぞお前ら!!あの人に俺達の実力を見せつけてやるんだ!!」


「その意気ですクボタさん!!

さあ!!いざ勝負!!」


一匹と二匹。計三匹のスライムが激突する。

今この瞬間、『昇格試合第二ラウンド』が幕を開けたのだった。

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