百三十四話VSキングさん! その3

簡単なあらすじ『キングさんの攻撃が始まってしまいました……』




「むぁあああ!!」


間一髪の所でエリマの炎を避けたルーであったが、その後に繰り出されたキングさんの攻撃までは躱し切る事が出来ず、彼女はそれを横腹に喰らいまた後方へと弾き飛ばされてしまった。


それを見たキングさんは素早く体を伸縮させて跳ね、更なる追撃を加えようとルーに接近する。


〝やめろ!!〟


彼の攻撃を阻止するため、エリマは再び火炎を放つ。

だが、その全ては空に消えてしまっていた。


「……!


エリマ!無理に今当てようとするな!

キングさんが着地した所を狙え!!地面を狙うんだ!!


そうすれば最悪当たらなくても……な……」


『爆風によってキングさんを足止め出来るかもしれない』……そう言おうとしていた俺は絶句する事となった。


キングさんが空中で体を伸縮させて方向転換をし、こちらへと向かって来たからだ。


そんな彼が目標としているのは恐らく……エリマだ!


「ダメだエリマ!今すぐそれをやめて移動を……!」


しかし、急にそんな事が出来るはずもなく、エリマはキングさんの体当たりをモロに喰らってしまった。


攻撃を腹に受けたエリマは苦悶の表情で体をくの字に曲げ、口に溜めていた業火をまるで吐瀉物のように前方に吐き出す。


そのすぐ後に潮が引いてゆくかのような音が聞こえてきた。俺の魔物の中では一番の巨体を誇るはずのエリマが、地面を擦り無理矢理に後退させられてしまっているのだ。


…………マズイ。

指示が遅過ぎてこちら側の行動が全て後手に回ってしまっている。


だがしかし、かと言って布石を用意しようにもキングさんの動きは非常に俊敏……そのせいで俺はまた何も指示する事が出来なくなってしまった。


口を出せば全てが後れを取り、それすなわち二匹を傷付け、消耗させる結果に繋がってしまうのだから……正直、もうどうしたら良いのかも今の俺には分からなかった。


ただ、キングさんのした〝あの動き〟は、プチ男やケロ太にも似たようなものが見受けられるため、もしかしたら冷静に対処すれば勝利への糸口が見えてくるやもしれない……とは思う。


だが、アイツら以上に彼の動きは素早く、とても見た即座に指示は愚か、判断する事すらも難しいものであるのだ……!それは机上の空論であり、今は何の解決にもなりはしない……!


俺は頭を抱え、左右に激しく振った。

そうしなければ……


『それは敗北を呼び込むだけ』


皮肉な事ではあるが、先程自分自身で頭に思い浮かべた言葉に囚われてしまいそうだったからだ。




キングさんと交戦したエリマは大分後退させられてしまい、助けに入ったルーも気息奄奄……攻撃に転じたスライムの勢いは留まる所を知らなかった。


先程までずっと二匹の攻撃を躱し続けていたと言うのに……彼はあんなに小さな球体だと言うのに……体力もそうだが何より、彼の持つ戦闘能力は我々のものとは比べ物にならなかったのだ。


正直、まさかスライム相手にここまで苦戦するとは夢にも思わなかった……それと、スライムを相手にするとここまで厄介だと言う事も。


今更のような気もするが、俺はそのような事に漸く気付かされた。


同時に『敗北』の二文字が嫌でも脳裏に浮かんでくる……だが今の俺には、それをどうする事も出来はしなかった。


焦りのためかエリマが的外れな方向に炎を吐き、そのうちの一発が近くに被弾した。砂の焦げるような臭いが周囲に立ち込める。


俺は何となしに、臭いの元となっている方向に目を向けた……そして、その辺りには確か、ケロ太とプチ男がいたであろう事を思い出した。


今のに当たってはいないだろうか?

怪我はしていないだろうか?


そう思った俺は黒く焦げ付いた地面を目標に定め走った。


すると……

彼等は無事であったが、何と炎がすぐ側まで迫っていたにも関わらず、試合の始まる前と全く同じような様子で動かずにいたのだった。


それを見、流石に驚きを隠せなかった。

同時にいくら何でもこれはおかしいと感じた俺はプチスライム達に声を掛けた。


「おい!お前らどうしちゃったんだよ!?


…………あ」


視界に入れただけでは気付かなかったが、触れるとすぐに分かった。


二匹は震えていた。


そう言えば。


スライム系魔物は縄張り意識が強く、他のスライムなんかが自分の棲家の近くにいるとすぐにそこから追い出そうとする。


ただし、あまりにも戦力差のある時はその限りでは無い……というような話をキングさんの講座で聞いた事がある。


……だとすると。

コイツらはずっと逃げ出したいのを我慢していたのだろう。不動であったのは動かないのではなく、やっとの事でそうしていたのだ。それが二匹の精一杯であったのだ。


まあ確かに、ただでさえ桁違いの戦闘能力を持つものが相手なのだ。しかもそれが同種だと言うのならば、きっとコイツらはルーやエリマ達よりも強くプレッシャーを感じていたはずだ。


それで思い出したが、『スライム講座』の時にプチ男がキングさんの話をやけに大人しく聞いていたのもそのせいだったのかもしれないな……


何となくではあるが彼等の心境を理解した俺は二匹を優しく撫でた。


だが……そのすぐ後で俺は痛感させられる事となった。前にある戦いから目を離してはいけなかったのだと言う事を。

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