百三十二話 VSキングさん!
簡単なあらすじ『何だコイツ……はともかく。クボタさんは漸くキングさんと戦うようです』
「さあクボタさん!早速試合を始めると致しましょう!
何処からでも、誰からでも、勿論全員まとめてかかって来ても構いませんぞ!!
貴方達の持つ力……そしてその勇気を!私に見せて下さい!!」
キングさんの叫びが会場を駆け抜け、それは試合開始の合図となった。
……そう言えばこれだけは聞くのを忘れていたが、やはり魔物達は試合に総動員してもOKだったようだ。
しかし……
戦いの幕は切られたというのに、魔物は誰一人として動こうとはしなかった。
それどころかプチスライム二匹は未だ硬直している。先程もちらりと目を向けたが、案の定彼等はキングさんの存在を知った時そのままの姿勢で佇んでいた。
これでは試合にならない……とは言え、そんな魔物達を叱咤、叱責しようとなどは毛の先程も考えなかった。
目の前でぷるりと揺れ、我々の出方を窺うスライム。もといキングさんの放つオーラがそれはそれはもう凄まじいものであったからだ。
あんなにも小さく、丸く、ぷるりとした姿であるというのに、周囲にあるそれのせいで彼は『禍々しい存在』のようなものとして目に映り込み、見ているだけでも空恐ろしいような気分にさせられてしまう。
……いや。
むしろそのように貧弱そうな姿形だからこそ、彼の持つそれがより異質に、より不気味に見えてしまい、そしてより強く恐怖を感じるのかもしれない。
そう。
しかし、強い事自体は間違いないと気付いていたが、先程まで軽口を叩いていたキングさんがまさか、いざ戦いとなるとここまでの〝もの〟を纏うとは思わなかった。
「……」
と、俺は声も、指示すらも出さずにそのような事を頭に思い浮かべていた。
……今思えばそれは、斯く言う俺自身もそんな彼のオーラに呑まれていたから、なのかもしれない。
だがしかし、これは〝戦い〟なのだ。
例え相手が強大なのだとしても、それを恐れて動けないのだとしても、『それにどうやって打ち勝つか』を考え、行動しなければ我々には勝利という名の光は見えてこない。
まあ、相手側のミス等によってその光が何もせずともやって来てくれるという可能性もあるが……相手が格上な以上、今回はそのような甘い考えは捨てた方が良いだろう。
そこで俺はまだ動けそうなルーとエリマのうち、会話の可能なエリマに近寄り、適切な指示を出すためにまずは彼の現在の心境や状態を確認してみる事とした。
「なあ、エリマ……どうだ?いけそうか?」
〝……クボタ。絶対に勝ち目が無い相手にどれくらい善戦したら『いける』って言うのか、まずはそれを教えてもらえるかな?〟
だが、ピリピリとしている片翼のドラゴンにはそう返されてしまった。しかも牙を剥き出したままで。
まあ俺の質問も悪かったし、それは良しとしよう……そうだな、では何と言えば良いだろうか……?
そう考えていた時、不意にキングさんが口を開いた。
「私を前にしても尚、逃げ出そうとしないのは素晴らしい。魔物達を立派に育て上げましたね、クボタさん……
ですが、これは歴とした昇格試合、何もせずとも許されるような場では無いのです。もしもずっとそうしているのであれば、こちらから」
「むぅあぁああ!!」
が、キングさんの話は中途半端に終わった。
突然ルーが彼に飛び掛かって行ったからだ。
多分ではあるが、彼女は『今しかない』と思い攻撃を仕掛けたのだろう。
それに関して俺は卑怯だとは一切思わなかった。相手があのスライムなんだからな。
隙があるとしたらそれは今だ。今しかなかったのだ……その瞬間を狙わなければまともな勝負が出来るかも分からないような相手と対峙しているのだから、それはむしろやって当たり前くらいの事だと俺は思う。
……しかし、なあ。
〝ルーに乗った!!僕も行く!!〟
するとエリマもそれに感化されたようで、彼は猪突の勢いでキングさんへと向けて走り出した。
「あ!おい待つんだエリ、マ……」
とは言いつつもその判断は間違いでないような気もして、俺は彼を本気で止める事が出来なかった。
二匹の行動は多少、試合を急ぎ過ぎているような気がしないでも無いが……
でも確かに、好機があるとすればそれは今なのだし、しかも仕掛けたのはルーとエリマの二匹なのだ。
もしかしたらそれは良い結果を
(……頼む二匹共!頑張ってくれ!)
恥ずかしながらも俺は、今は祈る事しか出来ないでいた。
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