百三十話 あの人は……!?

簡単なあらすじ『キングさん……変身!?』




キングさんの変身(?)は終わったようで、俺達の前には非常に丸く、またぷるぷるとした球体のようなものが姿を現した。


ただ、それはプチ男よりも少し大きいくらいのサイズという、魔物としても、スライムとして見ても非常に小さなものではあったが。


「ふぅ……クボタさん。

これで何となくは分かったでしょう?


貴方の昇格試合。それが最後になった訳が……」


その球体は口も無いのに流暢にキングさんの声でそう話した。


何処から声が出ているのだろう……などと考えるのはすぐにやめ、今度は彼の言葉の意味を俺は考え始めた。


確かに……『対戦相手の人間……それが魔物だったから』。これだけで〝ほぼ〟全て納得出来る。


俺が最後に回されたのは俺以外の誰にもその姿を見られてはいけないからであり、魔物を引き連れていなかったのは、彼こそが俺の魔物達と直接戦う者……そう、魔物であったからなのだ。


待てよ……という事は。

ここまで待たされたのは俺に何か問題があったのではなく、むしろ相手側の方にこそ問題があったからと、そういう事か……


理由は分かったが、解せないな……


まあ良い。もう過ぎた事なんだから。

俺は頭を振ってモヤモヤとした気分を霧散させた。




……それにしても。

どうやらこの人は色々な意味でとんでもない人物であったようだ。


俺は今やぷるぷるの球体となってしまっているキングさんに目をやる。


確かに姿形だけで見れば弱そうだし、実力の方は大した事はないかも……と、思うかもしれないがそれは間違いである。


絶対に、絶対にこの人は強い。それも、恐ろしい程に。


何故そう思うのかと言えばそれは簡単。

背後を見ずとも分かる程の殺気を、エリマとルーが放っているのだからな。


そう。

アイツらが支持せずとも、一瞬で『本気の戦闘モード』になっているのだ……それだけで分かる。目の前のスライムが弱いはずが無いという事が。


……等と考えていたのだが。

不意にとある疑問が頭に浮かんできたので、俺はそれをスライム……キングさんであろうものに聞いてみる事とした。


(ちなみにこれは余談だが。

俺はこの事にとても感謝している。我が事ながら、加えて感謝すべき者が形なきモノだとしてもだ。


彼の強さにビビるよりも先に疑問が来てくれたお陰で俺は〝そこまで〟緊張する事なく試合に挑む事が出来たのだからな)


「そうですね……それは何となく分かりました。

でも、まだ聞きたい事はあります。


キングさん……貴方が魔物だという事を、ここにいる人達は知っているんですか?」


「その答えは『否』ですね。

上手く隠し通せていますよ……今の所は。


……ああ、クボタさん。

貴方は魔物である私に何故、試合の順番を変更させられるような権力があるのかと思っている……そうですね?」


キングさんの予想は正解も正解、大当たりであった。

俺はちょっと驚きながらもコクコクと頷く。


「『人間』の時の私は、あれでも闘技場ここのちゃんとした職員でして、しかも役職に就いているんですよ。だからこんな事はいくらだって出来ます」


そこまで言い終えると、彼は一度ぷるりと揺れた。


なるほど。

まあそういう事なら可能、いや容易なくらいなのであろう……


というか、彼がそんな仕事をしていたとは全然知らなかった。俺はてっきりスライム講座で生計を立てているとばかり思っていたのだが。


「他にも質問はありますかな?」


……と、俺が考えている時に、キングさんはまた一度ぷるりとしてからそう言った。


勿論、まだ質問はある。

正直さっきの奴なんかよりももっと聞きたかったものが。


「はい、まだあります。


キングさん……

『貴方程の人が何故、僕なんかの相手を務めなければならないのか?』という事について聞かせてもらえませんか?


聞けば役職にも就いているそうですし……もしかして、これも何かの理由があっての事なんでしょうか?」


というワケで俺はそのような事を彼に聞いた。


事実、俺の試合を最後にする事が出来た彼ならば、対戦相手を自身にする事もまた容易だったはず……


いや、それが可能か否かはどうでもいい。

何故、権力者(?)である彼がわざわざ戦いの場へと出向き、戦わなければいけないのかが全く分からないのだ。


もしや、そこには何か隠された目的があるのではないだろうか……?そう思い、俺は彼にそのような質問をしたのである。


「あぁ…………


いえいえ、それはただの偶然でして、特に深い意味などはありませんよ。


残念ながらここは人手不足でしてね……私が駆り出される事もしばしばあるのです」


しかし、彼から返ってきた答えはそのようなものであった。


なら、俺の考え過ぎか……いや本当にそうか?


彼が答えるのには数瞬、間があったし……どうもそれが気になって仕方がない。この人は嘘をついているのではないだろうか?


「……本当ですか?」


「ほ、本当ですとも!!


さ、さて……クボタさん!

見た所大分落ち着いたようですし、そろそろこの時間を終了にしても宜しいですかな?」


そう思い、問いただそうとはしてみたが。

キングさんにはその〝口撃〟をぷるりと躱されてしまった。

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