百二十九話 あの人は……
簡単なあらすじ『対戦相手は、何と……キングさん?』
疑問に押し潰されそうな俺を放置して勝手に試合を始めようとしているキングさん……
それを何とか制止した俺は、混乱し過ぎたのか何を話したら良いのかすらも分からないような状態ではあったが……そんな頭で考えた結果ひとまず、首を傾げている彼に現在の心境を正直に打ち明ける事とした。
「……?
どうかされましたかな?」
「あ、あの……ちょっと、ちょっとですね……
ちょっと今、混乱してまして……
今の状態で戦うのは、少し難しいです……それに、聞きたい事もありますし……」
「おや、そうでしたか。
まあ、クボタさんにはご迷惑をおかけしてしまいましたし……
良いでしょう。時間を差し上げます。
その間に質問があるならそれも受け付けますぞ」
と、言うワケでそうしてみた所……
キングさんは俺の要求を快く受け入れてくれ、休憩時間&質問コーナーを頂ける事となった。
「ええと、それじゃあ……」
「落ち着いて、ゆっくりと考えて頂いて大丈夫ですよ。何せもう誰も試合を待っている者はいませんからね、いくらでも質問してください」
質問を考えている俺に、キングさんは笑いながらそう言う。
まあ確かに……いや、コルリスがいたな。あの子は挑戦者ではないが。
……ああそうだ。アレがあったな。
やや落ち着きを取り戻した俺は、最初から疑問に感じていた〝あの事〟を思い出した。
「ではまず。
何故、僕の試合が最後になったんでしょうか?
手続きを済ませたのはそこまで遅くなかったはずなんですが……
スタッフ……ではなくて、ええと、従業員?とにかく。それだけはいくらここにいる人達に聞いても教えてもらえませんでした。
ああでも、後で然るべき人から説明がある。みたいな事は言われましたね、キングさんはその辺りの事、何かご存知ですか?」
というワケで、まず始めにそのような質問をした。
先程も言ったとおり、これは最初から謎だったからな。何故、俺は昇格試合を最後に回されてしまったのだろうと。
「……あぁ。そうだった。
…………すみません。それを言うのをすっかり忘れていました」
やはり彼は何か知っているようだ。
まあそうだよな。この人が知らないなら他に説明出来る者はいないだろうし。
というか忘れるなよ。
こっちがどんだけ待たされたと思ってるんだ?その説明はむしろされなければならないはずであろうに。
「とは言ったものの、何と答えれば良いか……
いえ。口で言うよりも実際に見てもらった方が早いでしょう。
私のもう一つの姿……いえ、真の姿を!!」
そう言ってシルクハットを目深に被り直したキングさんの口元には、ニヤリとした笑みが浮かんでいた。
「……?
それはどう言う……
…………!!」
俺が話始めようとした直後に異変は起こった。
それは、キングさんにだ。
彼の身体が突然、その場でぐにゃぐにゃと本来の形状を崩して激しく動き出したのだ。
関節などあり得ない方向に曲がっている……
曲芸、なんて今は流石にやるワケないだろうし……一体、何が始まってしまったと言うのだろうか!?
「キ、キング、さん……!?」
とは言え、誰かに何かされて彼は今そうなっているというワケでもないので……
俺はそんな彼を助ければ良いのか、だとしたら何をしたら良いのか……つまりは、何をどうしたら良いのかすらも全く分からずに、ただただ怯えている事しか出来なかった。
そうしてひたすらにぐにゃぐにゃと動き続けているキングさんから目を離せずにいる事数秒後……俺は、彼が〝ある形〟を取ろうとしている事を知った。
それは球体だ。
彼は今、球体になろうとしているのだ。
事実、彼の身体は段々と丸く、そして小さくなりつつある。なので確実に……とまでは言えないが、そうである可能性は高いはずだ。
そう言えば、彼の着ていた服なんかの色も薄くなってきたような気がするな……それがどうしてなのかは分からないが。
そしてまた少しすると、やはりキングさんは完全な、それもぷるりとした球体となり変身(?)を終えたのだった。
……それは随分と小さなものではあったが。
多分、プチ男よりちょっと大きいくらいではないだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます