百二十八話 〝あの人〟

簡単なあらすじ『クボタさん会場に到着……相手の魔物使いはまだのようです』




会場に人がいないせいか、何処か伸び伸びとしている魔物達。そんな彼等はまた遊び始めた……そして、俺はその様子を何となしに眺めている。


が、暫くすると突然プチ男とケロ太がぱたりと動きを止めた。そのせいで二匹と戯れていたルーが攻撃をスカして地面を転がる。


「むぁああ〜!」


〝ケロ太、プチ男。どうかしたの?〟


砂に塗れて奇声を発するルーを無視してエリマが二匹にそう問いかけるも、スライムズは微動だにせず、返事もまたしなかった。(まあどの道出来ないだろうけど、喋れないし)


そうして再び静寂が訪れた時、コツコツとした靴音が突然、俺の耳へと土足で踏み込んで来た。先程まで俺達しかいなかったはずの会場でだ。


どうやら、対戦相手のお出ましのようだ。


さて、ではそろそろ気を引き締めなければな……いやまあ、むしろ遅いくらいなのは分かっているけど。

という事で俺は魔物達に「おい、そろそろ始まるだろうから皆大人しくしとけよ」と言い。


向側の入り口から今にも現れるだろう対戦相手、そしてその魔物がどんな者達であるのかを見極めるため、そちらに向けて目を凝らした。




今、両の目を凝らしているのには、対戦相手を見極めるのとはまた別に。


(こんなにも待たせやがって……どんな奴等だか知らんがまず最初に威圧しといてやる!)


というような目的も含まれているぞ。


そういえばスライム二匹はさっきからだが、エリマとルーも静かにしている。もしかするとアイツらも少々苛立っていて、俺のように『それはもう、ほぼガンを飛ばすとも言って良いような眼差し』をしたりしているのかもしれないな。


……まあ、それはともかくとして。

とうとう会場に対戦相手が姿を現した。


さて、それは一体どんな奴なのだろ…………


俺は驚愕した。

勿論、現れた奴等……


いや、〝その人〟を見てだ。




会場に現れた人物。


それは、高価であろうスーツに身を包み、頭にはシルクハット、そして革靴を履いた……見覚えのある老年の紳士。


そう。キングさんだった。


「お久しぶりですな、クボタさん」


俺を見、目の前までやって来たキングさんは穏やかな態度、それと口調でそう言う。


「あ、あぁ……そう、ですね。キングさん」


そんな彼の様子とは裏腹に驚きを隠せずにいた俺は、たどたどしくではあったがひとまずそのように言った。


いや、正直に言うと、驚きのあまりそれくらいの事しか言えなかったのだ。


「貴方とお会いするのは確か、ドロップ地方以来でしたでしょうか……


そういえば、あの時も私は同じような事を言いましたね。では、『またまたお久しぶりですね』、と言った方が良かったかもしれません。


しかし……それがこんな形の再会となってしまい、申し訳ありません。随分とお待たせしてしまいましたが、早速試合を始めると致しましょうぞ」


キングさんは疑問符ばかり頭上に浮かべている俺の事など全く気にせず続ける。


この堂々たる態度……前は割とマイペースに物事を進めようとする、テンションが高い人(スライムを見ると)、というイメージしかこの人にはなかったが、流石にこのような場ではそれは封印されるみたいだ。


(……マイペースなのは今もか)


いやもしくは、自分の実力に絶対の自信を持っているからこそ、そうした態度でいられるのかもしれない。


……実力?

そうだ、驚き過ぎて忘れていた。


この人は戦えるのか?

そしてそんな実力を、この人は持っていたのか?


それに…………彼の魔物は何処だ?


今度は疑問符ではなく、疑問が山程浮かんできた。




「さあ、早速試合を……」


「ちょ!!ちょっと待ってください!!」


唖然とする俺を完全に放置したまま、試合を始めようとしているキングさん。それに焦った俺はそう言って彼を制止させた。


「……?

どうかされましたかな?」


キングさんは首を傾げている。

どうやら、山程の疑問を抱えているのは俺だけであるらしい。


まあ、そんな事は何となく気付いていたが。


それにしても、何が何だか……


ただでさえワケが分からないのに、混乱し過ぎたのかまずこれから何を話したらいいのかすらも分からなくなってきたぞ……

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