百二十七話 Eランク昇格試合……漸く開始!!

簡単なあらすじ『クボタさんは会場に向かいます。頬を摩りながら……』




魔物達のコンディションを確認し、それが良好……つまり、戦うのには今が頃合いだと考えた俺は、皆を連れて会場へと向かっていた。


〝クボタ、さっきは何してたの?

アレをやるとどうなるの?〟


先程からエリマが自らケロ太に頼んでビンタされていた俺を不思議がって質問してくるのが五月蝿い。


……まあ、今は小馬鹿にしているのではなくて、本当に先程した行為の意味が分からずに質問しているのだろうから、教えてやっても良いっちゃ良いんだけどな。


でも、恐らくその事から察するに、『気合い』だの『根性』だのという言葉や、それを取り入れる方法を知らないであろうこちらの世界の、しかも魔物であるドラゴンにそれを教えた所で理解出来ないだろうし……


それにアイツの事だし、どうせまたバカにしてくるだろうから言わない。


(まあ実際、『あの方法』で気合いが入るという科学的証明はないだろうから、そうするのが正解かどうかは俺にも分からないんだけどな……所謂、気持ちの問題ってヤツであろう)


「むむ、む」


隣にいるルーもエリマと同じく不思議がっているようで、俺の頬に一時的に刻まれた炎症反応という名の刻印にチラチラと目をやり、たまに「む、む」と声を発している。


そんな彼女がもしも話す事が出来たのならば、『自分でやったようなもんだけど……ソレ、大丈夫?』とでも言っていたのであろう。


……あ!触らないでくれ!まだちょっとヒリヒリするんだから。


俺はルーの手を優しめに払い、気にしなくて良いから進むよう彼女に言った。


一方、スライムズは……

緊張こそあまりしていないようだが、俺の両肩に乗って忙しなくぷるぷるしていた。


だがしかし、俺が頬を摩るとすぐにそれを止めるのでこれまた不思議だ……いや、もしかするとコイツらは痛がっている俺を心配してくれているのだろうか?


まあ真相は不明だが、もしそうだとしても原因は俺にあるから気にする必要は無いのだ。俺は二匹にそう言い。両肩にあるそれをぷるりと撫でた……


…………ん〜。


何だか、魔物達の気が抜けてしまっているような気がする。俺にそれを注入した事によって、奴等の中にあった分が失われてしまったのだろうか?


……そんな事はないだろうが、ケロ太にやってもらった〝アレ〟がその原因の一つである事は間違いないように思える。


皆、それによって赤くなった俺の頬が気になっているようだし……ここは俺が何とかしなければ。


そう思い、考えついたのは……


「皆!俺は大丈夫だから今は試合に集中するんだ!

ほら!こんなに元気だから全然問題ないぞ!


さあ行こう!

ぐずぐすしてると置いてっちゃうぞ〜!」


いかにも元気である風を装ってから皆にそう言い両腕を曲げ、そして力瘤を作って先人に立つ事だった。




再度発言する事で試合を意識させ、また奴等を『気の抜けた状態』から『良い感じに緊張が解れた状態』に出来れば良いとやったみせたこの変な行動……


ちょっと恥ずかしかったが、これで魔物達が後者のような状態になってくれればそれだけで充分なのだ。


俺はそう思っていた……

だがしかし、そんな俺の背後では。


「むむむむむ」


〝何か、さっきからクボタ変だよね……?

ケロ太が強く叩き過ぎたせいじゃないの?〟


ぷるり!(これは左右に体を振るケロ太の音だ)


……(これはそんなケロ太をぷるぷるせずに見つめているプチ男の様子を言語化(?)したものだ)


とまあそのようなやり取りが行われていたらしく、結果魔物達は更に主人の頭を心配する事となってしまったそうだ。


(ちなみに、先程まで両肩に乗っていたはずのプチスライム達が俺の背後にいるのは、力瘤を作ってみせた時に二匹共落下したからだ)


……やはり、柄にもない事はやらない方が良いみたいだな。




さっきの変な行動?


知らん。そんな事は忘れた……

いや間違えた。知らないし何もやっていない。俺はただ歩いていただけだ。


それはともかく。

俺と魔物達は今、会場へと到着した所だ。相手の魔物使いと魔物はまだ来ていないようである。


会場は俺達を物音一つ立てずに、沈黙によって出迎えてくれた。


普段人でごった返しているこの場所に、それを歓声で満たそうとする者が誰一人としていないのは何処か寂しさを覚える……Gランクの時の昇格試合を、規則を無視して観客入りで戦ったサンディさんの気持ちが少し分かったような気がした。


でもまあ、それで何か変わるワケでもない。

そんな中でも俺は平常心を保つ事が出来ていた……観客ゼロの会場を見たのはこれが最初ではないしな。


一方、魔物達は静まり返った会場を見て緊張……している様子はなく、その振る舞いは何処か伸び伸びとしていた。


……なるほど。

どうやらコイツらにとっては人々の目が無い事はむしろ好都合であり、それで開放的になっているようだ。


確かに、俺は格闘技の試合なんかに出場していたので多少そのような空気には慣れていたが、魔物達もそうなのかと言われるとそんな事はないはず……


もしかすると、昇格試合で観客をゼロにするのは、『魔物達が本来持っている力を最大限に引き出せるようにする』という目的もあるのかもしれないな……そう考え、俺は一人感心していた。


そう、呑気にもな……

〝あの人〟が現れるまでは。

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