百二十六話 Eランク昇格試合……漸く開始……?

簡単なあらすじ『漸く控え室に移動出来そうなクボタさん達。でもコルリスちゃんは……』




「お!やっと始まるんですね!

じゃあ、遂にこの痛みからも解放されるんですね……良かった〜」


目を開けたコルリスは前に立つ俺と男性を見て感づいたのか、すぐに笑みを浮かべてそう言った。


(ちなみに……多分『この痛み』とは木製のロビーチェアに座り続けた事で発生したおケツ痛の事だと思われる)


そんな彼女にはちと、いやかなり言い難いな……ここからは俺一人でないとダメらしいだなんて……


しかし言わないワケにもいかず、俺はゆっくりと、かつ傷付けぬよう、刺激しないよう優しく「いや、実はねコルリスちゃん……」と、コルリスに先程男性から言われた事をそっくりそのまま告げた。


「えぇ、そんな!

じゃあせめてプチ男君かケロ太君だけでもここに……!


あ、あのすみません!

ここにいる魔物達は皆連れて行っても大丈夫なんですか?」


それを知ったコルリスはやはり、俺に八つ当たりを……するかと思ったがそうはせずに、何故か慌てた様子でそんな事を男性に聞いた。


その意図が分からず、俺は彼女に質問する……前に男性が口を開いた。


「はい。全てクボタさんの魔物ならば、それが何匹でも問題は御座いません」


あ、それは聞いていなかったがそうなのか。

じゃあ一応、全員連れて行こうかな。


「ええぇ!?そんなぁ……


試合がそんな形式で行われるなら魔物だって一匹じゃなければダメとかでもおかしくはないはずだと思ったのに……ボソリ(いや、まだクボタさんがそうと決めたワケじゃない!)


クボタさん!

この魔物達は皆連れて行くんですか……?何ならプチ男君か、ケロ太君を残していっても大丈夫ですよ?私がきちんと見ておくんで!」


男性が答えるのを聞いてショックを受けたらしきコルリスだったが、今度は俺に向けてこれまた何故だかよく分からない事を質問(要求?)してきた。


けれども、可能ならば魔物は全て同伴させたかったので……これまた言い辛いものではあったが彼女には「いやゴメン……皆連れて行くよ」と正直に告げた。


「えええぇ!?


じゃあ私は、試合が終わるまでここで一人、お尻が痛いのに耐えなければいけないんですか……?


…………うわ〜ん!!

そんなのヤダ〜!!」


俺が言い終えた数秒後、とうとう彼女は泣き出してしまった……


というかもしかしてこの子は、プチスライムのどちらかをクッション代わりにしようとしていたのだろうか……?


だとしたら尚更、皆を連れて行かなければ……流石に『終わるまでクッション』はコイツらが可哀想だし。


「寂しいですよ〜!!

お尻痛いですよ〜!!」


でも、コルリスはもっと可哀想だ……

彼女を泣き止ませるにはどうしたら良いのだろうか?


そう思っていると流石に責任を感じたのか、男性が敷物を持ってきてくれた。


コルリスはそれを受け取り漸く泣くのを止める。

まだ少し鼻を啜っているけど……


……こうなったら出来るだけ早く終わらせよう。

そう俺は自分に言い聞かせ、男性と共に控え室へと向かうのだった。




控え室へと到着してすぐに、俺は魔物達のコンディションを確認した。


『準備運動はいくらでもして良い。もう充分だと思ったら会場に来るように』みたいな事をあのスタッフ的な男性から言われたので、早めにそちらへと向かえるようそうしているのだ。


しかし、『いくらでも』とはなかなか太っ腹だ。

まあ多分、俺達を長い時間待たせてしまったからそれへの埋め合わせなのだろうが。


ちなみに、『その事への説明』はまだされていない。だが、それに気を取られていて昇格出来なかった……なんて言い訳は通用しないのだから、もうこれ以上は考えないようにしておこうかと思う。


……あとコルリスの事も。

ちょっと可哀想だったが、この試合で良い結果を出せないというのは彼女も望んではいないだろうからな。


まあそれはさておき、魔物達の調子はと言うと……


皆ずっと遊んでいたお陰か、ルーとエリマは万全に近い状態だったので軽く、プチ男とケロ太もあと少しスパーリングさせればかなり良い状態にする事が可能、とまあそのような具合だった。


これならば全力を出す事が出来るはずだ。

どのような結果になろうとそれなら満足……


であるにも関わらず、俺は一つ気掛かりな事があるせいで心にしこりが残っているような、そんな気分になってしまっていた。恐らく、表情にもそれが表れていると思う。


そして、その気掛かりな事とは……


先程の話の他に男性が俺に伝えてきた、『魔物達は全員、会場に連れて来て良い』という発言だ。


観客席にならばともかく、今から試合をするという者が自身の魔物を全て会場へと引き連れてやって来るのは見た事がない。


だとするともしや、まだ見ぬ対戦相手はこちらの魔物を全て相手取るつもりでいるのだろうか……


何だか舐められているようで少々腹が立つが、逆に言えばそれだけ腕に自信のある者が待っているのかもしれない。


……というような考えばかりが頭に浮かび、俺は今どうしても試合だけに集中する事が出来ずにいたのだ。


まあ、考えた所でどうなるワケでもないし、流石にそんな事はないだろうし、それは杞憂というか何と言うか、それよりももっともっと下らない心配である可能性の方が高いのは分かっているのだがな……


それとも、今回の昇格試合は妙な出来事ばかりで色々と過敏になってしまっているのだろうか?


どちらにせよ、このままでは良くない。

そこで俺はケロ太に、我が頬に気合いを注入してくれるよう頼んでみた。


(ちなみに、何故ケロ太なのかと言うと……

他の奴らでは俺の首ごと吹き飛ばしてしまう恐れがあるからだ。特にルーなんかは……)


すると、ケロ太は俺の頼みを快諾してくれたようで、まだ心の準備も出来ていない、その話をし終えたばかりの俺の頬に思い切り全身をバネにしたビンタのような攻撃を浴びせてきた。


「いっ!!…………たぁ〜!

……ありがとうケロ太。でもね、ちょっと早かったかな……」


首が取れるかと思った。

というか、もしかするとこれは人選ミスだったかもしれない。


まあ、まあ良い。

むしろこれくらい痛くなければ効果は無かっただろうからな。


実際、痛過ぎて悩みなど吹き飛んでしまった事だし。

だからそう。これくらいで良かったのだ。


とまあそんなワケで、先程よりも幾分かはマシな顔となれたであろう俺は頬を摩りながら魔物達を呼び集めた。


そして彼等のコンディションを再確認し、それが万全である事を知った後皆で会場へと向かうのだった。


……この時もまた、頬を摩りながら。


「痛……」

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