百十九話 〝アレ〟は突然に…… その4

簡単なあらすじ『逃げるクボタさん。ですがそこには何者かがいて……』




怒るジェリア。

その矛先はコルリスへと向けられている。


(ちなみに、そうなったのは俺のせいだ)


だがしかし、それはいつ俺に向けられるか分かったものではない。


そう思った俺は逃走を図るが現在装備しているのがパジャマであったため、ひとまず茂みにでも身を隠そうと家の裏手へと移動した。


しかし、そこで何者かと鉢合わせしてしまった。


まさか、そんな、もうこちらへとやって来たというのか……!!




「うわぁ!ま、待ってくれジェリアちゃ……」


「しー!クボタさん私ですよ!」


何者かと出会してしまった俺はそれがジェリアであると思い込み、まずは命乞いをしようとしたのだが……


それは勘違いだと判明した。

何故ならば、そこにいたのはコルリスだったのだから。


聞けば彼女も自室の窓からこちらへと脱出して来たらしい。それも、ジェリアの怒号を耳にしてすぐにだ。


正直こういう場合、彼女はあたふたしているだけかと思っていたが、どうやら緊急時にはそれなりの動きが出来る子であったようだ。


とにかく、まだ脅威が去ったワケではない。

今はジェリアにバレぬよう身を隠さなければならないのだ。


という事で俺達は茂みをその場所に選び、二人で身を寄せ合い、時が過ぎるのを待ち続けた。


「それにしても、ジェリアちゃんは何であんなに怒ってるんですか?しかも私に……」


それから少しして、怪訝そうな面持をしていたコルリスが俺にそう言った。


確かに、寝起きの彼女にはワケが分からないだろう。

そう思い、俺は簡単に事の顛末を彼女に説明した。


「いやぁ、それなんだけどね。


実は俺が、この前コルリスちゃんに聞いた『あの子も色々頑張ってるみたいな事』とかをジェリアちゃんにうっかり漏らしちゃってさ……それであんな風になってるんだよ」


すると、コルリスの顔が今度は驚いたような、呆れたような、そんな表情へと変化してゆく。


しまった。

トリガーが俺だと言うのは黙っておくつもりだったが……間違えて包み隠さず話しちゃった。


「ちょっと!それクボタさんのせいじゃないですか!あれだけ秘密って言っておいたのに!


というか……そんな事しといて何隠れてるんですか!さっさと行って謝ってきて下さいよ!」


そしてまた表情を変え……それも今回はやや怒っているような表情となったコルリスは、次の瞬間には立ち上がってそう言い、俺の背中をぐいぐいと押し始めた。


なるほど。

推察するに、今現在彼女の中にある怒りは俺に向けられたものであるようだ。当たり前と言えばそうだが。


しかし、困った事になった。

人間の味方がゼロとなってしまった。


それに、例え本当に今憤怒の鬼と化しているジェリアの元へと行き、謝ったとしても……それで彼女の怒りが収まるとはとても思えない。いや、無事でいられるかも分からないと言えるだろう。


……じゃあ謝りになんか行きたくない!

が、もし仮にそうしなければならないのだとしたら、最悪でももう少し時間を稼がなければならないだろう。


そう考えた俺は一旦、コルリスを落ち着かせるため彼女への説得を開始した。


「いやちょっと待って!俺が悪かった!それは認めるからちょっと待って!お願い!


あとコルリスちゃん声大きい!隠れてない!

今は落ち着いて!あともう少し静かにして!あと座って!」


「これが落ち着いていられますか!!

悪いと思ってるんなら早く行ってきて下さい!!」


しかしジェリアと同じく、彼女の怒りもまた収まる様子は無かった。


それどころか段々と声のボリュームが上がってきている……このままでは気付かれてしまうのも時間の問題だ。


「分かった!分かったからとりあえず静かにしよう!?ね!?


声が大きいから、このままだと気付かれちゃうから……」



「その必要は無いわ」



「……!」


その時、背後から発せられたであろう声を聞いた。

勿論、それはコルリスのものでは無い。


「だって貴方達はもう、見つかってしまったんだもの。この私にね」


「……ああ。そうだね。


ジェリアちゃん」




とうとうジェリアに居場所がバレてしまった。

流石に声が大き過ぎたようだ……


「残念だわコルリス。

貴女はもう少し口が堅いと思っていたのに。


でも安心して。そんなもの、私がどうにかしてあげるわ。これから……いえ、今すぐにね!!」


ずんずんとこちらに迫って来る彼女はまるで街一つ壊滅させてきたかのような、そんな堂々たる雰囲気を身に纏っている。


それが何を意味するのかは分からないし、分かりたくもない。が、とりあえず『ここから逃げた方が良い』という事だけはまず間違い無いだろう。


そう考えた俺は再び逃走を図ろうと……


したが、その傍らでコルリスが妙な行動をしているのに気付いた。

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