百二十話 コルリスの秘策
簡単なあらすじ『クボタさんとコルリスちゃんはジェリアちゃんに見つけられてしまいました』
とうとうジェリアに発見されてしまった。
流石に声が大き過ぎたようだ……コルリスの声がな。
だが、ここで諦めて敵の軍門に下れば何をされるか分かったものでは無い。どちらにせよ、今の俺には逃げるという選択肢しか残されてはいないのだ。
と、いうワケで俺は再び逃走を図ろうと……
していたのだが、その横でコルリスが妙な事をしているのに気付いた。
今、コルリスはしゃがみ込んだまま顔と両手を自身の服に突っ込み、そこで何やらゴソゴソとしているのだ。
……パニックを起こして逃げ場所をそこに選んでしまったのだろうか?そんな事をしても、頭も尻も隠せはしないというのに。
そんなコルリスの精神状態が心配になった俺はジェリアの足音に怯えながらも、彼女を錯乱の海から救い出すため声をかけた。
「コルリスちゃん大丈夫……?
とにかく落ち着いて、俺が何とかするから」
「もう無理だと思いますよ……
仕方ないんで、今は私に任せて下さい」
あれ、想定していたよりも冷静な返事が戻ってきた。
しかしコルリスはそう答えた後ですぐに立ち上がると、何とジェリアの方へと自ら歩いてゆくではないか。
やはり彼女は今、混乱しているのかもしれない。
そう思った俺は何度もその間違った行動を止めるよう、考え直すよう彼女に言ったのだが……それでもコルリスの足は止まらなかった。
「あら。潔いのね。
でも、それで許されるとでも……」
だが、それだけでジェリアの怒りは収まるはずもなく、彼女はコルリスに声をかけた後、目の前の少女を……
と思いきや、彼女の言葉は途絶えた。
一体コルリスは何をしたのだろう?
気になった俺は二人の様子を茂みの中から窺う……
そうして二人の様子をよくよく見てみると、ジェリアが沈黙した理由がコルリスの両手の中にあるのだと俺は気付いた。
そこには、ケロ太がいた。
そうか……あの時彼女がしていた意味不明な行動は、服の中にいたケロ太を取り出すためのものだったのだ。
「…………」
それを見たジェリアはまだ沈黙を続けている。
これは死へのカウントダウンなのだろうか?それとも……
緊張の中、俺も無言で彼女に注目を続ける。
するとその時、コルリスが囁くように語り出した。
「ジェリアちゃんも見ていたかもしれないけど……
ケロ太君は、この前の試合で負けちゃったの。
でも、この子は物凄く頑張ってくれたんだ。
ねえジェリアちゃん。私に怒っているのは分かるけど、まずはほら、ここにいるケロ太君を褒めてあげてくれないかな?
罰なら、その後で受けるからさ……」
彼女は言い終えると、ジェリアに対してうっすらと微笑みを向ける。
……!
やはりそうか。
俺はそれを見て確信した。
これは混乱した末の敗北宣言……などではなく。
そのように偽装した絶対防御技であり、彼女が見せた微笑はそれをより完璧なものとするためのダメ押しの一撃であったのだ。
だって……だって、そんな事をされたらジェリアは。
スライムが可愛いあまりに、コルリスからそれを奪い取り、撫で回し、そして憤怒の情を忘れ……つまり、彼女はもうコルリスに対して怒れなくなってしまうではないか!
「…………見てたわ。
見てたに決まってるじゃないの!
あぁ後輩スライム君!!貴方本当によく頑張ったわね!!もう大丈夫なの?どこも怪我してない?」
とか考えている間にもジェリアは全て俺の言った通りの行動をし、先程まで身の内で煮えたぎっていたはずの怒りを蒸発させていった……
流石コルリス。ジェリアと付き合いが長いだけあって彼女を〝いなす〟のはもうお手の物だな。
それから少しして。
ジェリアの中で燃え盛っていた怒りの炎が完全に鎮火したのを見届けたコルリスは、その後で何故か俺の方へと向かってきた。
「ふぅ……一応、ケロ太君が本当に怪我とかしていないか確認するついでに、昨日私の部屋で寝てもらっていて正解でした。
それよりも……クボタさんにはちょっと言いたい事があります」
「えぇ……ジェリアちゃんももう怒ってないみたいだし、コルリスちゃんも今日の事は忘れてさ……」
上記したような会話の後、そうは言ってはみたが残念ながらその要望にコルリスは答えてくれず、もう事は収まったというのに俺だけが彼女に長々と文句を言われてしまった。
……それにも不満があるし、何故だか俺は今物凄くアホらしいような気分になってしまっていて、彼女から浴びせられる怨言を大変苦痛に感じていたのだが。
まあ結局の所、今回の騒動の原因は自らにあるというのは紛れもない事実であるため、俺は仕方なくそれを全て受け止めてみせたのだった。
ちなみに……
勿論ジェリアはもう怒ってはいなかったので、コルリスだけは罰を受ける事を回避出来たようだ……ズルいな。
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