百十八話 〝アレ〟は突然に…… その3

簡単なあらすじ『クボタさんの案内状に記入漏れがあったようです』




まさかの、昇格試合の案内状に記入漏れがあった。

しかもジェリアは何だか投げやりだし、せっかくの朝だというのに俺はあまり良い気分とは言えなかった。


しかし、それでも腹は減る。

仕方がないので俺は朝食の準備を始めた。


ジェリアのくれた菓子を頬張りながら……

そして勿論、彼女の分も含めてだ。




それから少しして、我が家に物音が増え始めた。

コルリスと魔物達が目覚めたのだろう。なら、じきにここの体感温度も上昇し始めるはずだ。


そんな事を思いながら、俺は朝食の準備のため手を動かし続けていた。


一方、ジェリアは手伝う素振りすら見せない。

まあ客人に手伝わせるつもりも無いし、それに彼女は俺を祝うために今日ここへと来てくれたらしいのだから今回くらいは勘弁してやるとしよう。


「それにしても……

また貴方は私の先を行くのね。ちょっと嫉妬しちゃうわ」


その最中、ジェリアが不意にそんな事を呟いた。


どうやら彼女は自分よりも先に、俺の元に昇格試合の案内状がきた事が不満であるらしい。それで珍しくナーバスになっているようだ。


「大丈夫、ジェリアちゃんの所にもそのうちくるよ」


そんな彼女の様子を見た俺は出来るだけ優しくそう言う。だがしかし、ジェリアの脹面ふくれっつらは直らなかった。


「ふん!テキトーな事言わないで頂戴!」


あらら、直るどころかもっと膨れてしまった。

別にいい加減な事を言ったつもりは無いのだが……


「いやいや、テキトーに言ってるワケじゃないよ。

だって、ジェリアちゃんは俺達のいない所で大会に出場したりとか、依頼を受けたりとか、色々とやってるんでしょ?


そんなに頑張ってるんならきっとすぐに昇格試合の話もくるはずだよ。だから、そんなに落ち込まなくても良いんじゃないかな?」


そう。

俺は知っているのだ。


彼女が隠れて努力している事を。

俺にはそんな泥臭いような一面を知られたくなくて秘密にしていたのだろうけどな。


(じゃあ何で知っているのかと言うと……それはコルリスから聞いたからだ)


ただ、やはりチームがスライムまみれなためかその成果はイマイチなようだが……それでもきっと、その努力は報われるだろう。


そうだ。

俺はそれを把握していて、つまりはジェリアの努力に気付いていたからこそ、先程のような事を彼女に言ったのだ。


それは決して軽率な発言ではなかったのだ……

という事をジェリアに理解してもらいたくて話したのだが、それを聞いた彼女は納得するでも同意するでもなく、突然顔を真っ赤にして怒り始めた。


「は……はぁ!?

何で貴方がそれを知ってるのよ!!


誰よ!!誰が言ったの!?

言いなさい!!誰よ!!」


ジェリアは俺の肩を掴んで激しく揺さぶる。

今そんな事をされると手元が狂うからやめて頂きたい。


それにしても、一体彼女はどうしたというのだろう……ああ、そう言えばコルリスには『ジェリアちゃんには秘密ですよ?』と注告されていたっけ。


じゃあこんなに怒るのも納得だな。

ジェリアがあまりにも激しく揺さぶるせいで次々と床に落下する食材や食器類と共に、俺も腹落ちした。




「……いや!

よく考えると一人しかいないわね。


貴方にその事をバラした犯人は!」


もういい加減首が疲れてきた頃。

ジェリアは俺を蕩揺とうようするのをやめ、そんな事を呟いた。


とうとうバレてしまったようだ。

この事件の真犯人(?)が……いや、だとしても悪いのはやっぱり俺か。


だがしかし、ジェリアは最早俺の事などどうでも良いらしく、真犯人(?)であるコルリスの部屋へと一直線に駆け出していった。


「起きなさいコルリス!!いるんでしょ!?」


それからすぐ、コルリスの寝室のドアが叩かれる音が家中に響いた。


どうやら……いややはりと言うべきか、ジェリアの怒りの矛先は俺ではなくコルリスへと向けられてしまったようだ。彼女には何の罪も無いと言うのに。


コルリスには謝罪したい気持ちで一杯だ……

が、いつその矛が俺へと向けられるか分かったものではない。


そう感じた俺は朝食の準備をやめてすぐ外に出、何処か遠くへと逃走を図る。


だが、それには問題があった。

実は、俺は今現在パジャマでいるのだ。


それで街に行くのは流石に辛い……

と、いう事で俺は家の裏手に回り、その辺りの茂みに身を隠す事にした。


なるべく音を殺し、しかし出来るだけ急いで裏手に移動する。その最中、謎の背徳感と恐怖とに後を追われ、俺は生きた心地がしなかった。


それでも、何とか見つからずに移動出来た……

かと思いきや、俺はそこで何者かと鉢合わせしてしまうのだった。


まさか……そんな……

もうこちらへとやって来たというのか……!


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