百十七話 〝アレ〟は突然に…… その2

簡単なあらすじ『昇格試合の案内状が届いたクボタさん……そこにジェリアちゃんがやって来ました』




ジェリアが言ったその『お祝い』とは、俺が前回の大会でベスト8を達成した事へのものだったそうだ。


そういえば確かに、『晩御飯はちょっと豪華にしよう!』みたいな事はいったが昨日の夕食は流石に豪華過ぎたような気もする……もしかすると、それで賞金が入ったからだろうか?


まあそれは分からないが、とにかく。

俺は気付かぬうちにそんなものを達成していたようだ。


ただ……正直全く実感が湧かないし、その事に困惑さえしていた。だって負けたし……


「もう良いでしょ?じゃあ開けるわよ!」


俺が気持ちを整理しかねていると言うのに、条件をクリアしたジェリアはそんな事など知らぬ存ぜぬといった様子で俺の元へときた昇格試合の案内状を手に取り、それを読もうとしている。


やっぱりもう少し条件を厳しくした方が良かっただろうか。俺は今更になってほんの少し後悔していた。


「……何コレ」


だが、彼女の楽しげな表情は中の案内状を見た途端、知人が往来の中央で全裸でいるのを発見した時のようなものへと変わった。


一体どうしたと言うのだろうか?

まさか、それはやっぱりサイロ君の悪戯で、中には『嘘だよバーカ!お前には昇格なんてまだ早い!』とでも書かれていたのだろうか……流石にそれは無いと思うが。


「どうかしたの?

まさか、偽物だったとか?」


そこまで急に表情を変えられてしまうとどうにも気になって仕方なくなる。そんなワケで俺はジェリアにその理由を聞く事とした。


「いや、そんな事はないと思うけれど……コレ、試合の日時と場所しか記載されてないわよ。


対戦相手の事とか一切書かれていないの。

本当に何コレ?こんなの見た事ないわ」


彼女はそう言った。


確かに、Gランクの頃に貰った案内状にはきちんとサンディさんの名前が書かれていたのを覚えている。


これはもしや、記入漏れ……

いや、差出人(機関?)を考えると、そんな事もまた無いとは思うのだが……


「まあどうせ観戦は出来ないんだし、どうでも良いわ。とにかく頑張ってね、クボタさん」


そう考えているのも束の間、ジェリアはそのシンプル過ぎる案内状に興味を失ったようで、それをぽい、とテーブルの上に放り投げた。


やはり彼女は昇格試合で誰と、どんな魔物と相対するのかと言う事が気になっていただけであるらしい。随分と適当な応援を寄越されたのだから嫌でも分かる。


「ちょ、テキトーだなぁ……どれどれ」


彼女の手から離れた案内状を俺も一読してみた。

するとやはり彼女の言うとおり、そこには試合の日時と場所、それだけしか記載されていなかった。


「……本当だ。

それだけしか書いてない。


でも、どうなんだろ?俺は今まで一回しかこの通知貰った事無いからあまりよく知らないけど、もしかして案内状って本来こういうものだったりして」


それを見ているうち、不意に疑問が浮かんだ俺はそれを独り言のような形で口に出した。


その疑問とは今言ったとおりだ。

俺は一度しか案内状を貰った事は無いし、しかもそれはテキトーで有名(?)なGランクの、それもサンディさんからのものだった。


ならばこちらの方が正しくて、あちらの方が間違っている可能性もあるのではないだろうか?いや、どちらかと言えばその可能性は高いような気がする。


「そんなワケないでしょう?

基本的に、昇格試合の相手は挑戦者よりも格上の戦闘職が務めるものなの。だからその相手や魔物の事は普通なら必ず記載されているのよ。


それを見て挑戦者は対策を練って、それでやっと互角に渡り合う事が出来る……だから、それが記載されていないというのは本来あり得ないものなのよ」


だが、俺の言った疑問(意見?)は彼女にきっぱりと否定された。その理由もしっかりとしている。


なら、これは……


「じゃあ、やっぱりこれって」


「記入漏れでしょうね。貴方ツイてないわ。


まあ、何処かに連絡すれば教えてもらえるんでしょうけど、残念ながら私もそこまでは分からないわ。


こうなったらもう、その日が来るまで徹底的に鍛えておくしかないわね」


やはりそうなのか……最悪である。

しかし、悪い予感とはよく当たるものだな。

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