百十六話 〝アレ〟は突然に……
簡単なあらすじ『クボタさん、敗北!!』
「嘘……」
「じゃないですよ……」
「何かの間違いじゃない?それか君の悪戯とか?」
「そんな訳ないじゃないですか……クボタさん依頼とか結構受けてたんじゃないですか?それも沢山やれば昇格出来るみたいですよ、知ってました?」
「あ、そっか……じゃあ多分、俺宛てで合ってる」
上記は早朝にて、珍しく早起きした俺とサイロ君の会話だ。当時の俺は酷く驚き、郵便物を届けに来てくれただけの彼に疑いの目を向けまくってしまった。
申し訳ないとは思っている。
だが、〝あんなもの〟が、それもあんなタイミングで届いたら誰だって悪戯だと勘違いもしてしまうはずだ。
つい昨日第三試合で敗退した俺に、昇格試合の案内が届くなんて……
というのが数分前。
今の俺はそうして届けられた案内状を一読しようとしている所だった。
また、俺は台所のテーブルにてそれを行おうとしている。だからコレがきたからと言って皆を呼び集める必要が無いのだ。
ちなみに、それは何故かと言うと……
ここならば招集せずとも皆勝手に集まって来るからだ。朝食もまだだしな。
ただ、ケロ太郎だけは今日は早起きしているようで、もう俺の足元をウロウロとしているが……まあどちらかと言えばコイツには関係無い話であるからして、今すぐに説明してやる必要は無いだろう。
それに多分、言ってもあんまり分からないだろうし。
まあ良い。では読んでみるか……
と、その時、玄関扉が軽く叩かれるのを聞いた。
早速誰かやって来たようだ。
でもコルリスもそうだけど、魔物達もノックはしないような?
とにかく、俺は叩かれた玄関扉を開いてみる。
すると、そこにいたのはジェリアだった。
「あら、クボタさん今一人?
まあ良いわ、お邪魔するわよ」
あら……思っていたのと違うのがやって来た。
とりあえず俺は彼女を家に招き入れる……前にもう入ってきた。
「ああそう……今日は何しに来たの?」
「何って、お祝いよ。
クボタさんは甘い物好きかしら?」
それが一体何のお祝いなのか分からないが、ジェリアはそのよく分からない祝福のために持って来たのであろうクッキーのようなものを手にしていた。
「うん、好きだよ。結構好き。
でも、あんまり食べた事は無いかな」
言ったとおり甘味は好きである。
しかもこの世界では殆ど……いや、食べた事がないかもしれない。そう思うと胸が高鳴るのを感じた。
……勿論彼女にではなく、彼女が今手にしている物に対してだ。
「そう。なら良かったわ、ハイこれ」
「ありがと。では早速、頂きます……美味い!」
ジェリアがくれた菓子を一口頬張ると、口の中いっぱいに控えめな甘さと、乳製品だろうか?それらだと思われるものの優しい香りが広がる。
久方振りの感覚だ。
ウマいとしか言いようがない。
そう俺は喜びながらもそれが自身にとっては貴重である事を知っていたため、ゆっくりゆっくりと味わいながら食べ終えた。
「いやぁ美味しかった!ありがとうジェリアちゃん」
「フフ、喜んでもらえて良かったわ」
その後俺が礼を言うとジェリアは少し笑った。
いつも図々しく家に入って来る彼女のそんな表情を見るのは珍しいような気がする……図々しいのはいつも通りか。
「あ、そうそう。
サチエから伝言があるわ。
『試合も観に行けず、祝う事も出来なくて申し訳ない……本当にすまないクボタ!こんな私を許してくれ!』だって」
俺が菓子の余韻に浸っていると、サチエの表情と口調を真似て彼女は不意にそんな事を話した。
ふむ。どうやらその言い方だとサチエもここに来る可能性があったようだ……というかこの二人、結構仲良いんだな。
「ふーん、じゃあサチエはこの前の試合観てなかったのか……いや別に怒ってるワケじゃないから全然良いんだけど」
「どうも最近忙しいみたいでね、まあサチエにも立場があるから仕方な……
……あら!」
突然ジェリアが小さく叫ぶ。
彼女の視線の先には、俺が置きっぱなしにしていた昇格試合の案内状があった。
「クボタさん……まさか、コレは……」
彼女は口に両手を当てて俺の方を振り返りそう言う。
反応を見るに昇格試合、そしてその案内状とは色々と他者に秘密にしなければならないクセしてその見た目は同業者にならば誰にでも分かるようなものをしているらしい。
「ああ、それ。今朝届いたんだ。
でも、俺が一番驚いてるよ。だってこの前の試合負けたし……」
「…………早速読んでみましょ!」
俺がまだ話しているというのに、ジェリアはすぐさまそれを手に取り読もうとする。
それを見た俺はすかさず彼女から案内状を奪い取った。
「いやいやいやいや。こういうのって他の人に教えちゃダメなんでしょ?じゃあジェリアちゃんが見たらダメじゃん」
「でも気になるでしょ普通……あ!
じゃあもうコレあげないわよ!良いの?」
それを聞き、ジェリアは持って来た菓子をちらつかせて半ば脅しのような形で案内状を読ませるよう交渉してきた。
なんて汚い真似を……でももう一つ、いや正直に言うと三つくらい食べたい……
そう悩んだ末に、俺はある条件で彼女にそれを読む許可を与える事とした。
「分かった。読ませる。
でも俺の質問に一つ答えてくれ。そうすれば許可しよう。
……結局『お祝い』って何のお祝い?」
まあ、その条件は簡単過ぎてあって無いようなものなのだがな。でもさっきからずっと気になっていたのだから仕方ない。
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