百十五話 勝利とケロ太は岩の下……? その2

簡単なあらすじ『ケロ太君は大丈夫でしょうか?』




「ケロ太ー!!」

「ケロ太君!!」


辛くも勝利……かと思われたが、何と真っ二つになったガーゴイルの上半身にケロ太が押し潰されてしまった。


ただし、まだ〝かもしれない〟なのだが。


だがそれでも……いや、だからこそ心配だ。

ケロ太はどうなってしまったのだろう?


「あっ!待って下さいクボタさん!」


俺は居ても立っても居られず、砂塵を掻き分け会場の中央へと駆け出した。それを見たコルリスも俺の後に続く。


「大丈夫かケロ太!!」


そして、辿り着いてすぐにそう叫ぶも、先に姿を見せたのは…………


ガーゴイルだった。


下半身を失った奴は俺達を一瞥した後、腕の力だけで器用に移動して自分の魔物使おやいの元へと戻って行く。


まさか、もうケロ太は……

そのような考えが嫌でも脳裏に浮かび、俺とコルリスは砂が舞う中必死にケロ太の姿を探した。


その際、審判的な人は俺達をやや迷惑そうな目で見ており、客席からも冷たさを感じる視線が向けられている事には気付いていた。


まあ、まだ勝敗が決まってもいないのに魔物使いが突然近付いて来て、しかもウロチョロしているのだから当然だろう……


でも、まだ直接手を出したワケではないからルール違反ではないし、そもそもそんな事よりもケロ太が心配だった俺達はそれらの視線を全て無視してそこにいるはずのプチスライムの姿を探し続けた。


すると、そこで漸くケロ太を発見した。

……やはり下敷きにされてしまったのだろう、ぺちゃんこの座布団のようになったケロ太を。




一応、この会場には魔物への医療を行える者も配備されているんだそうで、俺達はすぐにその人達を控え室に呼び、ケロ太の容態を診てもらっていた。


また、そこからも分かるように、俺達は第三試合でとうとう敗北した……


が、今はそんな事どうでも良い。

ケロ太が無事でいてくれさえすれば良い……俺達は祈り続けていた。


魔物達も部屋の隅で珍しく静かにしている。

その中でも特に心配そうにケロ太を見つめている(多分)のはプチ男だった。


同族であり後輩……そんな彼が心配でならないのだろう。それを見た俺はプチ男を撫でながら彼にこう話した。


……きっとそうなのだと自身にも言い聞かせるように。


「大丈夫だ、きっと大丈夫だよ……」


それから数分後……

医療スタッフ的な人は漸く立ち上がってこちらを向くと、話し始めた。


「診察が終わりました。

その結果ですが…………


問題ありませんね。何処も怪我していません。

ただあの時のショックで気絶していただけみたいです」


笑顔でそう話す彼女の背後で、座布団のようだったケロ太が元のまん丸な形状になるのが見えた。どうやら気絶していたのから今目覚めたらしい。


俺達がそれを見て駆け寄る、よりも先に、ケロ太の元へと行ったのはプチ男だった。


ケロ太も先輩を認識し、二匹でぷるぷるとしている。

良かった。本当に何処にも異常はなさそうだ。


だが、そんなケロ太は俺とコルリスが近付こうとすると萎縮したかのように縮こまり、プチ男の背後に隠れてしまった。


「どうしたんだケロ太?」


俺が後輩スライムの行動を疑問に思い、そう問いかけた時、不意にコルリスが何かに気が付いたような顔をして話し始めた。


「あー……クボタさん。

ケロ太君はちょっと責任を感じちゃってるみたいですね。


そう言われると確かに、これでクボタさんの連勝記録はストップ……あ!」


なるほど。

コルリスの言う事は間違っていないようだ。


彼女が口を滑らせてそこまで言ってしまった直後、ケロ太は力無く萎み、また座布団のようになってしまった。


(恐らくコルリスが何を言っているのかまでは分からないのだろうが、彼女が『余計な事を言った雰囲気』のようなものを感じ取ってそうなってしまったのだろう)


「いやいやいや!大丈夫だよケロ太君!

クボタさんは怒ってないって……そうですよね?」


慌ててケロ太をコルリスが励ます。

そんな彼女に助けを求められた俺は……


ひとまずケロ太をぷるりと人撫でした。


「勿論怒ってないよ。

なあケロ太、お前は頑張ったじゃないか。なら連勝記録なんてどうだって良いんだ。


それに……

まだ俺はFランクなんだから、そんなの持っていたって調子に乗ってしまうだけさ……


むしろこれで良かったんだ。『今まで無敗なんだから負けるワケがない』なんて慢心は成長を阻害するだけだろうからね」


それを聞いたケロ太は、少しだけ元の形状に戻った。


そしてそんな彼をプチ男も励ましているようで、それからまた暫くするとケロ太は本来の形状へと復活していた。


最後の方は何を言っているのかあまり分かってはいなさそうだったが……とにかく元気になってくれて良かった。


「よし、じゃあ帰ろうか。

……そうだ!今日はちょっと豪華な晩御飯にしよう!俺も手伝うからさ!」


敗北したからと言ってこれで終わりではない。

必ず再始動する時が来るのだ。なら、その時は『楽しく』だって良いじゃないか。


そう思い、俺はそんな事を言いながら皆を帰路に促す。


そうだ。

そこからまた俺達はスタートするのだ。




その帰り際、エリマが俺にボソリと呟いた。


〝クボタ……励ましてるのは分かったけど、アレはなんかちょっと、考え方が後ろ向きじゃない?〟


良いんだ。余計な事は言うな。

それに、どちらかと言えば俺は元よりそういったタイプの人間なんだから。

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