百十三話 VSガーゴイル!
簡単なあらすじ『試合前、プチ男とケロ太君はやはりぷるぷるとしていました』
第三試合にて、俺はケロ太を出場させる事とした。
今は控え室を出て会場に向かっている最中である。
相手の魔物はガーゴイル。
Fランクの魔物、戦闘職が戦う相手としてはちょっと強い魔物だそうだ。
でもまあ、この大会に出ているという事は相手の魔物使いも当然Fランクであり、そうなると魔物も『野生の個体を捕まえてきた』とかでなければ実力はFランクに収まる程度なのだろう。
ならば、勝率は思っているくらいのものよりも幾分かは高いはずだ。
それに……
ケロ太、そしてプチ男の頑張りを俺は知っている。
だからコイツもエリマやルーのように、俺に勝利を運んできてくれるかも……いや、きっとそうであるはずだ。
うん、きっとそうだ。
親である俺が信じなくてどうするんだ。
俺は雑念を振り払い、ケロ太を撫でる。
『頑張れ』という意味を込めて。
……それから少しして、観客達の待つ会場が見えてきた。
もうすぐあそこに立ち、コイツは戦う。
いや……俺達は戦うのだ。
姿を現すと同時に脚光を浴びる俺達。
そこの中央には既に相手も、その魔物も待機していたようだ。
俺は相手の魔物の方に視線を向ける。
魔石類魔物、ガーゴイル……
それは岩や砂なんかで出来た不安定な体をしている魔物であり、取り込んだものによってはかなり大きくなる事もあるのだと聞いていたが、やはりその情報は間違いではなかったらしく、今回戦うそれも思っていたよりかは少し大きいように見える。
つまり、体重差も想定していたものよりも幾分かは大きくなってしまっていると言う事だ。
……ケロ太は大丈夫だろうか?
また、そんな事を考えてしまう自分がいる。
そうして俺が視線をケロ太に移すと、コイツは今ガーゴイルへと威嚇をしている最中だった。
ちょっと珍しく思える。
普段は大人しい子だと言うのに。
「ケロ太、急にどうしたんだ?緊張してるのか?」
俺がそう問いかけると、ケロ太は威嚇をすぐにやめて普段の状態へと戻った。恐らく緊張や不安等からそうしているワケではないらしい。
そういえば、確かコイツは控え室にいた時も……
なら恐らく、これらの行動はあの先輩スライムが伝授したものなんだろう。
ただ、残念ながらどちらからも言質が取れないのでこれは推測の域を出ないのだが、だとしても〝ほぼ〟間違いないはずだ。
……まあ良い。
そんな事ばかりしていて疲れてはいけないので、そろそろやめさせるとしよう。
「大丈夫だ、ケロ太。
無理してまでらしくない事はしなくてもいいから、その代わりに全力でやってこい」
俺が言うと、ケロ太はぷるりと一度、縦に揺れた。
その仕草までプチ男に似てきたような気がする。
まあ、それはそうか。
ケロ太にとってアイツは先輩なんだし、それに加えて仲が良ければ色々な所が似てくるのはむしろ当然と言えば当然だ。
いや……それかコイツは、出場したくても出来なかった先輩スライムの分まで頑張ろうとしているのかもしれないな。
「よし……じゃあ行ってこい!
頑張ってこいよケロ太!プチ男の分までな!」
それが正解なのかどうかは分からなかったが、俺はそう言ってケロ太を送り出した。
そうして会場の中央へと進み行くケロ太。
その後ろ姿もまたプチ男の面影があり、俺はその背中に、戦いに赴くもう一匹のプチスライムを垣間見たのだった。
「…………」
「クボタさん……」
コルリスの顔がみるみるうちに不安に包まれ、俺もまた緊張を隠し切れずにいた。
そして、それは何故かと言うと……
既に始まっている試合。その調子があまり良いものとは言えないからだ。
ガーゴイルは想定していたよりも戦闘能力が高く、ケロ太は翻弄されてしまっている。
とは言え、ケロ太も防戦一方というワケではなくしっかりと攻撃を試みてはいる。
は、いるのだが……相手の動きが素早いためかその攻撃をクリーンヒットさせる事が出来ず、体力ばかりが奪われていくという、次第に悪い状況へと追い込まれてしまっていた。
だが勝算はある。
それは相手の魔物使いが一切指示を出していないからだ。
恐らく、しないと言うよりは不定形魔石類の魔物であるガーゴイルにはそれが出来ないのであろう……ならばこちらが一方的に指示を出せるという事であり、その点だけで言えばこちらの方が圧倒的に有利なのだ。
そして、それを利用して勝利を掴むには俺がしっかりと戦いを見、適切な指示を出す事が絶対条件だ……
しかし、逆に言えば俺の指示一つでこちら側の敗北が決まってしまう可能性も充分あるワケであり、それで俺はどのように、いつ、どれだけの指示をケロ太に出そうかと思い悩み、緊張してしまっているのだ。
「あっ!ケロ太君!」
そうこうしているうちに、とうとうケロ太が一撃を喰らってしまった。それを見てコルリスが慌てる。
だが幸いにもそれはガーゴイルの前脚での攻撃であり、大した威力ではなかったようだ。
ケロ太が吹っ飛ばされた後にすぐ動き出したのが何よりの証拠である……とはいえ、俺もそろそろ指示を出さなくてはならない。
……そう考えてはいるが、もしも間違えてしまったら……そのような心配もあって緊張は深まるばかりだった。
その時、ガーゴイルの胴体部分がぴしりと音を立てるのを聞いた。
多分ではあるが、その辺りからアイツの体を構成している岩の石質等が違うのであろう。ガーゴイルの胴体には継ぎ目があった。
そして恐らく、先程の音はそこがケロ太と戦ううちに痛むか何かして発せられたのだと思われる。
ならばそこを狙うのが良いのではないだろうか?
もしそれでガーゴイルが真っ二つになれば試合はこちらが有利……いやそれどころか、勝ちが決まったような状態となるかもしれない。
それに多分、〝不定形〟魔石類の魔物であるアイツは例えそうなったとしても死ぬ事はないはずだ……だとすれば試してみるしかない。
「ケロ太!相手の胴体にある継ぎ目を狙って攻撃するんだ!
ただし今すぐじゃないぞ!
相手の隙を見てやるんだ!良いな?」
これだ、と思った俺はすぐさまケロ太に向けそう言った。
中央で戦うスライムは一度小さく体を揺らす。
多分、多分ではあるが、俺の指示はきちんと伝わったようだ。
その後すぐ、このチャンスを逃してはならないと思ったのかガーゴイルが再びケロ太に攻撃を繰り出す。
それを見たケロ太は何と……
突然、その場でぐるぐると回転し始めた。
またその回転は早く、地面を掘り返すのではないかと言う程のものであった。
というか、あれは。
何処か見覚えのある、あの技は…………!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます