百十一話 ロフターの罠(?)

簡単なあらすじ 『ギガントトロールの求婚はまた失敗に終わりました』




面倒臭くなりそうな雰囲気の会場から脱出した俺達はまだ控え室にいた。


一応、怪我等がないか隈なくルーの体をチェックしているのだ。(それは勿論コルリスがやってくれているぞ)


暫くしてから、コルリスは……ニコリとした。

どうやら大丈夫だったようだ。


そうして診察(?)を終えたルーは元気にスライム達と遊び始める。大丈夫どころか無傷だな、これは。


それを見た俺は大きく息を吐いて控え室にある椅子に座り込む。と、すぐさま睡魔に襲われた。


試合が終わり、彼女の無事も確認出来た事で張り詰めていた精神が弛緩したせいだろうか。とにかく眠い。


まあ……今くらいは良いか。

それならばゆっくりと……


あれ、でも今いる場所って……?

それもまあ、気にしなくて良いか。




目を覚ますと、椅子が動いていた。

しかもそれはいつしか寝転べる程の大きさへと変わっており、妙にゴツゴツとしている。


しかしちょっと硬過ぎるため、これよりかは前の奴の方が良いと俺は思った。


……て、椅子がそんなんなるワケがない。

まさか、俺は今誘拐されている途中なのだろうか。


いや、きっとそうだ。

試合に負けたロフターが怒って俺に報復をしようとしているのだ。


ならば早く逃げなければならない。

そうしなければ、俺は……アイツに札束で殴られ、金持ちとそうでない者の格差をこれでもかと言う程見せつけられてしまうだろう。


まずは現在地の確認だ。

俺は周囲を見回す。


そこには見慣れた街の風景があった。

なるほど、どうやらここはまだ街であるらしい。誘拐されてからそれほど時間は経っていないようだ。


しかもそれを見ていて気が付いたが、俺とその間には壁や柵なんかが存在していない。そう、俺はただただ動く事しか出来ない、目標を捕らえたままにしておく機能を持たない椅子で連行されているだけに過ぎなかったのだ。


普通に視認出来ているのだから当たり前と言えばそうだが……まあとにかく。逃げるチャンスはいくらでもありそうだ。


しかしロフターの奴、これは油断し過ぎなのではないだろうか……?いくら対象が眠っているからとは言え、到着するまでずっとそうしているとは限らないだろう。


……ハッ!

もしや優秀な見張りがいるのだろうか?

そうだ。そうに違いない。


俺はまた周囲を見回した。今度は舐め回すように。

だが俺を少し変な目で見ている通行人がちらほらといるくらいで、見張りらしき者はどこにも見当たらない。


いや……よくよく見ればそこにはコルリスが混じっているではないか。後はルー、プチ男、ケロ太といったいつものメンバーも……


まさか、そんな。

コルリスが俺を裏切ったのか……


でも、そうだよな。

彼女には苦しい生活をさせてしまった時期もあったし、色々不満もあったのだろう。


そんな時に金を積まれて『クボタの誘拐に協力しろ』と頼まれれば、断れるはずもない……か。


そう考えた俺は落胆しながらもコルリスを許すという決断を自身に下し、むしろ謝罪しなければと思い立って彼女にこう言った。


「コルリスちゃん、ごめん!

俺が悪かった……今まで君には、大変な思いばかりさせちゃったね……


でも……でも!

だからと言って悪事に加担するのだけはダメだと思うんだ!だからお願いだ!こんな事はすぐにやめて家に帰ろう!」


突然、周囲には静寂が訪れ、コルリスが恥ずかしげに頬を赤らめる。ただ、その薄桃色は悪事に加担した自分への羞恥からではなく、何処か別の要因によって描き出されたかのような気がした。


「ちょ、ちょっとクボタさん何変な事言ってるんですか!悪ふざけが過ぎたのは謝りますから静かにしてて下さい……というか起きたならもう降りて下さい!」


すると、コルリスは頬を赤くしたまま素早く俺の元へとやって来て、小声でそう言った。


悪ふざけとは一体何の事だろう……?

そう考えていたのも束の間、何と寝心地の悪い椅子から声が聞こえてきた。


〝本当にね。クボタは何を言ってるの?

もしかしてまだ寝ぼけてる?〟


しかも声の主である椅子は頭まで持っていたようだ。それを捻って俺を見つめている……あ、エリマだ。


「あれ?エリマ?

椅子じゃなかったの?」


〝うん。まだ寝ぼけてるみたいだね〟


「とにかく降りて下さい!」


ワケが分からぬまま俺はエリマとコルリスによって無理矢理椅子だと思っていたドラゴンの背中から降ろされ、これ以上変な事を言わないように、しないようにとコルリスに腕を掴まれたまま家まで歩かされた。


彼等は一体どう言うつもりなのだろう?

誘拐されたかと思ったら、今度は普通に家まで歩かされるしでもう何が何だか……




家で話を聞くと、コルリスは終始申し訳なさそうにしながらも全て話してくれた。


何でも、結構な時間が経ったにも関わらず椅子に座った俺が全く起きなかったため、彼等は仕方なく俺をエリマの背中に乗せて帰り始めたんだそうだ。


ちなみにその時、ロフター、トーバスさん、ナブスターさんと言った人物達と出会ったそうだ……が、皆ドラゴンの背中でぐで〜っとしながらひたすらに目を閉じている俺のその様子に驚いていたみたいだ。


試合後に何かあったのかと……


ただ、その理由はコルリスの口からきちんと彼等に伝わったようだ。皆苦笑しながら理解してくれたらしい。


(ちなみに、ロフターはたまたまではなくアイツの方からやって来たんだそうだ。恐らく捨て台詞でも吐くために来たのだろう)


……そこでもう分かるだろうが、俺は誘拐されていたのではなく、そのようにして辱めを受けていただけなのだそうだ。


街の人々からも……もっと早く降りれば良かった。

まあそれはともかく、それでコルリスは申し訳ないと思い、俺に話す時恐縮至極といった様子であったのだ。


ただ……


エリマはその事を全く気にしてはおらず、そんな彼を見ていたコルリスも途中からは面白がっていたとかいなかったとか……


それを聞き、俺は流石に少し怒りを感じていた。

しかしコルリスがお詫びにと俺の今日の晩飯を少し豪華なものにしてくれるらしいので、その怒りはもう水に流す事とした。


だが夕食中、エリマが俺を揶揄ったせいでコルリスが先程の事を思い出してしまったのか笑い出し、更にはそれにつられてアルワヒネ、ルー、ケロ太郎(コイツはただ単に鳴きたかっただけだと思う)までもがケタケタと笑い始めたため、俺が忘れたはずの怒りは再燃する事となった。


ああもう!

勝ったのに何かムシャクシャするな今日は!

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