百十話 『諦めない者』がもう一人……
簡単なあらすじ『ルーちゃん勝利!!』
VSギガントトロール。
それはブチギレたルーの勝利で終わった。
まさか彼女にあんなパワーがあったとは……もしや、『怒り』によってそれが引き出されたのだろうか?
とにかく、ルーだけは怒らせない方が良いようだ。
絶えない歓声の中、コルリスと一緒にルーを抱きしめながら俺はそう思っていた。
俺達が試合を終えて控え室に戻ろうとしていたその時、会場の中央で仰向けに倒れていたギガントトロールがむくりと起き上がった。
巨人は近寄って来た途端に文句を言い始めたロフターとそれを諌める……いや嗜めているトーバスさんの存在など見えていないかのようにぼんやりとしていて、まるで『昨日深酒した中年男性』のようであった。
もしかすると、ボコられ過ぎて脳にダメージがいってしまったのだろうか……と思っていると大地を揺らして巨人はすぐに立ち上がった。
顔も元に戻っている。
良かった。先程の放心は意識を取り戻した直後の、一時的なものであったようだ。
すると、そんなギガントトロールがこちらを向き、じっと俺達の事を見つめ始めた。
どうしたと言うのだろう。
まさか、試合に負けた腹いせに何かしようとしているのではないのだろうか……
そう俺が心配していると、突然大木のような腕がブツブツと文句を言っていたロフターの真上に移動する。
「わぁあああ!何するんだ!」
「坊っちゃま!!コラ、やめんか!!」
その直後、トーバスさんの叫びと小僧の悲鳴が聞こえた。最初にやられたのは奴の主人達だったか……なら次は俺達、早く逃げなければ……
「ヤバい……コルリスちゃん、ルー!早く行こう!」
「むむぅ」
「え〜、もうちょっとこの歓声を聞いていたいんですけど……もう少し待ってもらえませんか?」
俺は必死に一人と一匹の腕を引いて巨人からの逃走を図る。だがどちらもやけにのんびりとしていて、なかなか俺の言う通りに動いてはくれなかった。
「ちょ!何やってるの二人共!?
アイツのあの感じ、ヤバいって!」
現に、今もギガントトロールは俺達の事を見つめて……いや、とうとうこちらへと歩き出した。
しかも、一度ロフターの上にあった方の奴の腕には何かが握られているように見える。あれはもしや……マズいマズい!これは絶対にマズい!
「ほらほら!二人共早く行こうって!
ギガントトロールが近づいて来てるよ!ねえ、ほら!」
危機感を覚え、何度もそう言って手を引く。
だが、コルリスとルーはこれまた呑気な顔で巨人の接近を眺めていた。
こんな時にどうしてそんな表情で、しかも逃げずにそうのんびりとしていられるのだろう。俺にはそれがさっぱり分からなかった。
「大丈夫ですよクボタさん。
ギガントトロールからは敵意を感じません。というかむしろ……」
コルリスがそう言い終える前に、とうとうギガントトロールが俺達の前に立った。
彼女はそう言っていたが、大丈夫だろうか……まあ確かに、怒ってはいないようだけれど……
俺達の前に立ったギガントトロールは片膝を地に下ろし、ルーの前に自身の手を差し出した。
そこに握られていたのは、ロフターの首。
ひぇえええええ……
……ではなかった。
そこにはロフターの着ていた喧しい程の装飾が施された上着があった。
「あらら……これは……」
それを見たコルリスが何故か頬を赤くしている。
意味の分からなかった俺は彼女に小声で質問した。
「ちょっとコルリスちゃん。何?どういう事?」
そう言うと、コルリスもまた小声で返事をする。
そうして教えられたのは……以下のような驚くべき内容であった。
「ええ、聞いちゃうんですかクボタさん。
これはですね…………求婚してるんですよ。ギガントトロールがルーちゃんに。
それと、ロフター君の上着は結婚指輪代わりなんでしょうね……私まで恥ずかしくなっちゃいます」
俺は空いた口が塞がらなかった。
何となく予想はしていたが、やはりギガントトロールまでもがまだルーを狙っていたのか……
しかしコイツと言いその主人と言い、何て奴等なんだ。片方は自身の半分以下の大きさである者に、もう片方は異種族であるトロールに恋をしているとは。
しかもそれは、俺の大切なトロール……
許せん。絶対に許せん。そんな事は認めてなるものか。
そう思った俺はルーとギガントトロールの間に立つと、そのデカい方のトロールに向けてこう言ってやった。
「おいお前!怖いけどこれだけは言わせてもらうぞ!
お前がルーと結婚するだなんて絶対に認めないぞ!せめてプロポーズするならもう少し強くなってからにするんだな!」
それを聞いたギガントトロールは(何だオメーは、関係ないだろ)とでも言いたげな表情をしているばかりであったが、ルーがその意見に同調するかのように俺の腕にしがみ付いた途端にその顔をとんでもなく悲壮感の漂うものへと変えた。
「何っ!?そうか、お前それで僕の上着を……いやそんな事はどうでも良い!!
おいコラ許さないぞバフィ!主人に無礼を働いただけではなく出し抜こうとするだなんて!!」
「ああ!おやめ下さい坊っちゃま!!」
ロフターがそれを聞いて激高し、トーバスさんが慌てて止めに入る。対して、ギガントトロールはその心が深海の底にまで到達しそうな程落ち込んでしまっているようだ。
とまあそのような感じで、会場が面倒くさくなりそうな雰囲気となってきたので……俺達は今度こそそれを脱出して控え室へと戻った。
その際、ルーはニコニコと笑っていた。
正直、ああは言いつつも『彼女がアイツと結婚したいのかどうか、本人の意見も聞いてみるべきだろうか……』と迷っていたのだが……
この笑顔はやはり思い浮かべるのではなく、近くで見ているに限る。
なら、少なくとも良い相手が見つかるまでは、その辺りの判断はまだ、俺がやらせてもらおう……そう、俺は決心した。
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