〜異世界魔物大図鑑〜転生したら魔物使いとかいう職業になってしまった俺…とりあえずこの世界の事は何にも知らないので魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました
百八話 再戦!ギガントトロール! その3
百八話 再戦!ギガントトロール! その3
簡単なあらすじ『ルーちゃんピンチ!』
ルーがギガントトロールに背を向けて後退を始めてしまった。
勿論それをやめさせようとはしたのだが、俺の声は彼女の耳には届かなかった。ロフターのせいで。
そうして指示を受ける事も出来ないまま無防備に逃走を続ける彼女の背後には今、巨人のこれまた大きな腕が迫っている。
この状況は、非常にマズい。
早く、早く何とかしなければ……
「相手に背を向けちゃダメだ、ルー!」
正直、もう遅い……のかもしれないがルーをこのままにしておくワケにもいかず、俺は早急に彼女へと叫んだ。
すると耳がピクリと動き、ルーが振り返るのが見えた。そんな彼女を捕えようとしているギガントトロールの片腕は最早目と鼻の間にある。
「見なくて良い!走れ!走るんだルー!」
俺はまた急いでルーに言った。
そんな事をしていては本当に捕まってしまう。
そうなればルーは……
俺は最悪の想像を頭から振り払い、何度も何度も彼女に『走れ!』と命じる。
しかし、次の瞬間。
緑色をした大きな腕が彼女に影を落とした。
「ルー!!」
「ルーちゃん!!」
俺とコルリスは絶叫し、気付けば二人同時に彼女へと向けて手を伸ばしていた。
そんな事、しても意味は無いはずなのに。
俺達では、もうどうする事も出来ないと言うのに……
巨人の掌がルーを包み込んでゆくのが嫌でも目に入る。それを見たコルリスが「嫌っ!!」と小さく叫んで顔を手で覆った。
「よし!よし!良いぞバフィ!
でも、あんまり痛くするなよ!!」
歓喜するロフターの声が聞こえる。
この瞬間、彼は勝ち星と彼女を手に入れたも同然となったのだ。それは嬉しいに決まっている。
「……クソ」
どうしても目の前の光景を正視する事が出来ず、目を伏せる……俺も限界だった。
俺は水と共に脇に置いていた白い布を手に取る。
アイツらの事だからルーを殺しはしないだろうが、だからと言って彼女が怪我をするのをただただ見ているだけなんて絶対に御免だ。さっさと降参して解放してもらおう。
……これでルーをロフターに奪われてしまうのだとしてもだ。彼女が無事でさえいればそれだけで良いのだから。
俺は白い布をひらひらと動かし、降参である事を皆にはっきりと示す……
直前、ルーのものであろう声を聞いた。
それを耳にした俺は視線を中央に戻す。
そうしてみると、巨人の指の間で光る彼女の両目がこちらに向けられている事に気付いた。
しかし、何故だろう。
それは先程のものよりもかなり鋭くなっていて、しかも血走っている。ように見える。
と、ついつい観察してしまっていたのも束の間、ルーのそれは掌の中に存在する闇に紛れて消えた。どうやら彼女の目はギガントトロールの方に向けられたらしい。
……すると、突如としてギガントトロールが苦しみ始めた。
奴はルーを掴んでいる方の腕が痛むのか、それをもう片方の腕で押さえ呻いている。
何か、様子がおかしい。
相手側はそう思ったのだろう。ロフターは片眉を下げて巨人の姿を凝視しているばかりだった。
ただ、そのように感じたのはこちらも同じなのだが。
「何だか……」
「様子がおかしいですね」
俺の言葉をコルリスが引き継ぐような形で言う。
やはり彼女も同じ事を考えていたらしい。
「あの、クボタさん。降参するのはもう少しだけ待ってみませんか?だってギガントトロールが苦しんでいるって事は、多分ルーちゃんが何かしているって事ですよね?」
続けてコルリスは言う。
確かにその可能性は高いだろう。ならばもう少しだけ様子見してみても良いかもしれない。
そう思い、コルリスの意見に賛成した俺は彼女に頷いて見せ、『この試合をまだ続ける』という判断を下した。
「む……むぅあぁあああああ!!」
それから数十秒程が経過しただろうか、突然ルーが会場に響き渡るくらいの大声を上げた。
凄まじい程のそれに観衆がどよめく。
それよりも更に近い位置にいた俺達は耳が痛くなってしまい、逆に声すらも上げられぬまま両耳を塞いでいるのが精一杯だった。
その時、意図せず相手陣営の様子が目に入った。
ロフターは仰天しているようだ。目を見開いている。
一方、トーバスさんは微動だにしていない……が、流石の彼でもこれには驚いたのか、ロフターと同じようにギガントトロールとその手の中にいる声の主をただただ見つめる事しか出来ていない様子だった。
そうしてルーの咆哮が、熱や電気達のようにその響きを会場全体に伝導し終えた頃、今度はギガントトロールがそれよりかは大分小さな声……それもやはり呻くような声を発した。
だが、それだけではなかった。
それからすぐに巨人の、それもルーを捕らえている方の手が、指が、地面に吸い込まれてゆくように折り畳まれていったのだ。
「クボタさん……これは……」
コルリスがそう呟いて俺の方を見、また中央に視線を戻し、それからまた……というようにキョロキョロとしている。
こちら側が優勢になったのだろうが、けれども何がどうなっているのかが全く分からない。恐らく、彼女はそんな事を思っているのだろう。
だが、俺には分かる。
これは間違いなく、反撃だと。
ルーが反撃を開始したのだと。俺にはすぐに分かった。
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