百六話 再戦!ギガントトロール!

簡単なあらすじ『ルーちゃんがいよいよギガントトロールと戦います』




観客達の注目が中央へと一気に集まる。

それは勿論ルーとギガントトロールがそこに立ったからだ。


あと数分もしないうちに試合が始まる。

俺とコルリスはただ静かに、戦いの幕が切って落とされるのを待ち続けていた。


脇に置いていた水を一口飲んだ後、俺は中央に目をやる。


そこでルーは腕をぶんぶんと回していた。

先程までエリマとずっと練習し続けていたというのに……まだ準備運動が足りないのだろうか?


でもまあ、試合前から疲れているワケではなさそうなので良しとしよう。


対するギガントトロールは同族の女子に攻撃するのは気が引けるのか、それともやはり彼女の事を諦め切れないのか……その理由は分からないが何やら微妙な顔をして佇んでいた。


コイツがずっとこんな調子ならば勝利するのは割と簡単かも……


いや、確か前回の戦いでこの巨人は、一撃を喰らった後すぐ戦闘モードに入っていたか……まあ例え今回はそうならずとも、絶対に油断するべきでは無いだろう。


当然、それはどの戦いにでも言える事なのだがな。


「おいバフィ!!絶対勝つんだぞ!!」


ロフターが叫び、それをトーバスさんが諌めているのが見える……失礼、『嗜めている』の間違いだ。


というかあのギガントトロール、そんな名前だったのか。確かに何となくしっくりくるような……


いかんいかん、試合に集中しよう。




人々が今か今かと試合の開始を待ち侘びつつも、その瞬間をしっかりと目で捉えようと自ずから静まり始めた頃。いつも通りに審判的な人が現れ、二匹の間に立った。


そして遂に。


「始め!!」


それは始まりを告げた。


「な、何してるんだバフィ!すぐ構えろ!」


直後にロフターが叫ぶ。

試合が始まったにも関わらず、ギガントトロールが棒立ちしていたからだ……


当然、こちらにとってはチャンスである。

俺はすぐさまルーに指示を出した。


「チャンスだ!いけ、ルー!」


俺が言うとすぐにルーは巨人へと突っ込んで行く。


そうして彼女の放ったハイキックは、数瞬遅れて片膝を付き、構えようとしたギガントトロールの顔面にクリーンヒットした。


そう……ギガントトロールのした姿勢、そしてタイミング……その全てが奴にとっては最悪で、我々にとっては最高のものだったのである。


顔を押さえてギガントトロールが尻餅をつき、それを見たロフターが口をあんぐりと開ける。


何だか不運過ぎて、ちょっと可哀想な気もするが……だが手加減なんてするつもりは無い。俺はルーに追撃を指示した。


しかし、そこでトーバスさんがロフターの肩に手を置くのが見えた。


彼のした、ただそれだけの行動。

だが、たったそれだけで小僧は『まだ負けたワケでは無い』という事に気付かされたようだ。


あんなにも狼狽えていたロフターが落ち着いた表情に戻ったのだからそんな事はすぐに分かる。


何だか嫌な予感がした俺はルーに攻撃するのを止めさせ、距離を取るように指示した。


その直後ロフターが何事かを指示し、それを聞いたギガントトロールが立ち込める砂埃と共に起き上がった。


間違いなく、奴は起き上がる時わざと両手を大きく動かした……恐らく、砂埃を利用してルーの視界を奪うつもりだったのだろう……


この瞬間俺は『トーバスさんが敵として存在している』という事を改めて恐れ、そして畏れ……彼等との戦いをより一層注意深く見守る事とした。




それから暫くして……も尚、二匹は互いに距離を取ったままであり、試合は永久に続くのではないかと不安になってしまう程膠着した状態となってしまっていた。


とはいえ、少なくとも俺達は望んでそんな状態にしたワケではない……


ギガントトロールが直立して構え、かつ不動でいるせいで隙が無くこちらから攻撃するのが危険であり、またリーチにも差があり過ぎるがためにそうなっているのだ。


そして、相手側はその姿勢を変えるつもりは無さそうだ。どうやら『例の構え』がルー相手では不利だと気付き、作戦を変更したようである。


いつしか巨人の顔付きも戦いに相応しいものとなってしまっている。今の奴にはもう二度と不意打ちまがいの攻撃は通用しないだろう。


これでは動くに動けない……


だが、それはロフター達も同じなようだ。先程からこちらと同様、動かずにいるのが何よりの証拠である。


確かに、機動力では優るルー相手に先に行動し、そのせいでカウンターでも喰らってしまえばいくらギガントトロールと言えどひとたまりもないはずだ。


それに、不利な姿勢ではなくなったとしても有利になったワケではない……その事を彼等は知っているのだろう。だからこそ今こうして動かずにいるのだ。


「むむっ!」


その時、隣にいたコルリスがルーのような声を上げた。


どうしたと言うのだろう。

俺は目をルーに向けたまま彼女に声をかけた。


「どうかしたの?」


「クボタさんこれです!!

今コレの『ご挨拶』という所を読んでいたんですけど……」


ちなみに、コルリスが言った〝コレ〟というのは大会のパンフレット的なものだ。彼女は物凄い発見をしてしまったのだとでも言わんばかりにそこにある文章の一つを指して鼻息を荒くしている。


もしや、そこにこの状況を打開するヒントでも書かれていたのだろうか?流石にちょっと気になるため、俺は彼女が再び話し始めるのを待った。勿論目はルーに向けたまま。


「どうやら最近魔物使いの間で指示を沢山出したり、技名を言ったりするのが流行っているみたいですよ!

ちなみにそのきっかけはクボタさんらしいです!


だからロフター君もそうしているんです!

クボタさん!それを逆手にとって相手の作戦を先読みしましょう!そうすればきっとあの人達に勝てるはずですよ!」


「…………ありがとう、流石コルリスちゃん」


へぇ、流行っていたのか。


まあそれはともかく。

だとしても作戦が筒抜けなのはこちらも同じなワケで、それに、今はどちらも指示を出してはいないワケで……とりあえずその情報だけではこの状況を打開する事は難しそうだ。


だが、コルリスがあまりにも嬉しそうな表情をしていたので本当の事を言うワケにもいかず、ひとまず俺は彼女に礼だけ言っておく事とした。


結局、ヒントは貰えなかったか。

さて……どうすべきか、この状況。

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