百二話 青年(見た目だけ)は空を求める

簡単なあらすじ『ナブスターさんと一緒に遠距離攻撃魔法を覚えましょう』




予想外にも好調の『遠距離攻撃魔法訓練(ナブスター流)』……それはナブスターさんが今日は何の予定も無いとの事だったので、午後も引き続き実施可能となった。


その礼に俺はナブスターさんを我が家での昼食に誘った。するとこれまた予想外に、彼はひどく喜んでくれたようだった。


(彼はそんな感情をなるべく表には出さないようにしていたのだろうが……隠し切れていなかったし、もりもり食べていたのですぐ分かった)


そんなに腹が減っていたのだろうか?

いや、俺がずっと練習に付き合わせていたんだからそりゃあ減るだろうな……何だか申し訳ない。


……とにかく。

昼食後の休憩はもう充分だろうし、そろそろ練習を再開するとしようか。




そうして俺達は午後も続けて……の前に。

別働隊へ出していた指示を少し変更した。


とは言ってもエリマに『バランスを取る、回転の調整等の目的でのみ片翼、尾の使用を許可する』と告げただけなのだがな。


だが、それを決定するのには大分悩まされた。

それで良いのか、悪いのかなんて現状では分かるはずがないのだから……


でもまあ、それだけでもエリマの動きはかなり良くなっているし、とりあえず問題点が見つかるまではこのまま様子を見る事とする。


それと、ロフター戦に出す魔物も決めた。

それはルーだ。午前中少しやっただけで魔法もなかなか上達しており、何より彼女は一度奴らに勝利しているからだ。


もう変更はしない。

ルーならきっと勝ってくれるはずだ。それを確実なものとするため、今日彼女には沢山の練習、休息、そしてむうむうしていてもらう予定である。


で、そんな彼女はもうコツを掴んだため個人での練習をしている。それと、ケロ太も上達が早かったので同様に個人練習だ。


そして、そうでない俺と補欠のプチ男は……

ナブスターさんと共にレッスンをしているぞ。


「クボタ君。スライム君。肉体強化魔法を覚える時は身体の負担さえ気にしないのならば、その前に一度動いて身体を循環している様々なものの速度を早めた方が良い……それは知っているようだね。


ああ、確かにそれは間違いではない……間違いではないんだが。


それはあくまでも『その練習を行う前段階まで』の話なんだよ。それを発動させようとしている時まで身体を動かしていたら集中が途切れてとても出来たものではなくなってしまう。特に初心者である君達はね。


分かったかい?

大丈夫そうだね。それじゃあ君達は一度、何か運動をしてから僕と魔法を使う訓練をしようか。


え?『プチ男が戦いたいみたいだからそれで身体を動かす事にします!その方が戦闘の練習も出来て一石二鳥だと思いますし!』だって?


あ、ああ……勿論大丈夫だよ。

しかし君もそうだが、そのスライムも練習熱心だね。感心したよ」


という事で俺はプチ男とちょっと久しぶりな気もするマンツーマンでのスパーリングをするため、皆から少し離れた場所に移動した後、もう腕に絡み付いているせっかちなぷるぷるをそこから引き剥がした。


全くコイツは……ちゃんと話を聞いていたのだろうか。


ナブスターさんの話がちょっと長かったのは分かる。分かるが、彼はちゃんと細かな説明までしてくれているんだから、しっかりとその無い耳を傾けてほしいものだ。


しかし、やる気に満ち溢れているその姿勢だけは評価したい。


多分、コイツも負けたくないのだろうな。

ケロ太と、そして自分に。


木の葉がかさりと音を鳴らして地に落ちる。

それが戦いの合図となった。


前進する俺を前にし、プチ男は高く飛び跳ねた。

彼は青く澄んだ空に溶け込み、それを探して数瞬動きを止めた俺に向け降下する。


……コイツもやはり、成長しているようだ。




良し。これで適度な運動はバッチリ。

ナブスターさんの話もちゃんと覚えている。


次は呼吸を整えて、首のつけ根に手を置いて。

脈拍から魔力の流れをイメージし、意識してそれを感じ取るのだ。


……おおお、身体が熱くなってきたような気がする。

今ならばもしや。


「おりゃ!!」


サチエとした以前の練習。それと同じように飛び跳ねた俺の身体は2メートル程も浮き上がった。


そう、俺はこの時初めて身体強化の魔法を使う事が出来たのだ。


とはいっても、まだまだ魔物達には及ばないが……でも喜んで良いだろう。やったぞ!!俺にも出来たんだ!!


「や、やった!!

ナブスターさん!!これって成功なんですよね?そうですよね?」


「ああ!その通りだよ!

おめでとうクボタ君!よく頑張ったね!


……ボソリ(夕暮れ時まで……本当によく頑張ったよ)」


テンション高めな俺の問いにナブスターさんはそう答えた。


やはり間違い無いのだな。

だが、どこかでまだ信じられない自分もいる。


これは初めて補助輪無しで自転車に乗れた時の感覚に近いだろう……遥か昔の記憶だが、そんな気がした。


「おや……なるほど。

クボタ君!彼も君の成長に喜んでいるみたいだよ!」


ナブスターさんが視線を移して言うのでそちらの方に目をやると、プチ男が俺と同じくらいの高さにいるのを見つけた。


それと同時にプチ男は俺に絡み付いてくる。

どうやら本当にコイツは祝福してくれているようだ。


全く、可愛い奴だ。

家財さえ食べなければもっと可愛いんだがな。


どうのこうのとは思いつつも、俺はプチ男をこれでもかと言う程撫で回してやった。


……空中でそんな事をしていたせいで背中から地面に落下したが、特に怪我等はなかった。

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