百一話 一筋の光……?

簡単なあらすじ『クボタさんは今悩んでいる事をナブスターさんに相談しました』




「……え?


でもナブスターさん。貴方は……」


ナブスターさんは言った。

魔法を使った遠距離攻撃の開発、それだけは力になれるかもしれないと。


確かに魔力、魔法を扱える剣士は存在する。それは知っているし、彼もそうなのだろう……


が、だとしても専門外であるのには変わりないはず。しかも教える相手は魔物達……本当にそんな事が出来るのだろうか?


「ああ、確かに僕は剣士で、その方面の分野では魔術士達にはとても敵わない。


だが、今の君達に助言するくらいの事は出来ると思うよ。何と言うか君達はまだ、その……次の段階に進むのに結構苦労しているみたいだからね」


言葉を選びながらそう言い、苦笑いする彼の視線の先には……グダグダな練習(魔法)を続けている魔物達がいた。


まあ、彼が俺達よりも魔法の扱いが上手いのだろうというのは何となく分かるし、そんな者ならばあの状態の奴らにアドバイスするなんて簡単な事、出来ないワケがない……か。例えそれが魔物だったとしても。


「……お恥ずかしい限りです。


そ、それはそうとして!!

でしたら、どうか僕達に協力してはもらえませんでしょうか……?」


俺は羞恥心を何とか抑えながらそう言い、彼に協力を求めたのだった。




ナブスターさんは当然のように俺の頼みを快諾してくれたので、その話の後すぐに彼と俺を交えて魔物達の『遠距離攻撃魔法訓練(ナブスター流)』は開始された。


「ごめんよ。少し痛いかもしれないが我慢してくれ」


「むむ、むむむ」


だがしかし、練習が始まったというのに彼は、俺の家から持って来た裁縫用の針でルーの掌をつついてばかりいる。


〝そういうの〟が好きなんだろうか……いやいやそんなワケがない。というか何を思っているんだ俺は。


そんな事を考えている間にも、ナブスターさんによる文字通りチクチクとした練習(?)は続けられていた。


(もしかしてこの人、本当は魔法が使えないんじゃないか?でも俺にああ言った手前とても断る事が出来なくて、仕方なくそれっぽい事をしているとか……言う程〝それっぽく〟はないけど)


失礼だとは思うのだが、今やっている事の意味が不明過ぎてどうしてもそのような想像ばかりしてしまう……


だがまあ、ルーは痛がっていないようだったので、俺はもう少しその妙な練習を見守る事にした。


そして数分後……つつかれていたルーの掌から、何と小さな光のようなものが飛び出した。


物凄く小さいけれどあれは魔法に違いない、はず。

嘘だろ……もう使えるようになったと言うのか。


「よし!やったな、偉いぞ!

後はその感覚をしっかりと覚えて練習を続けるんだ、分かったかい?」


「むむ、むぅ〜」


ナブスターさんはそう言ってルーの頭をわしゃわしゃと撫でた後、俺に歩み寄って来た。


「クボタ君、あの子はなかなか筋が良いな。最初にしては上出来だ。


それに、君はあの子の魔力量は少ないと言っていたが、そんな事はないように思える……恐らく、それも肉体と共にきちんと成長しているんだろう。だから安心して良い。あの子は練習を続ければきっと魔法を使いこなす事が出来ようになるはずさ」


「そ、そうなんですね……」


やはり、あれで成功していたのか……

とはいえ、今までいくら練習してもダメだったルーがこんなにも早く魔法を使えるようになるとは……正直今でも信じられない。


「あの……今の、どうやったんですか?

今日ずっと練習していても全く出来る気配の無かったルーが、あんなにも簡単に魔法を使えるだなんて……」


「何も特別な事はしていないよ。

僕はただ、ああして掌を刺激する事で『どこに意識を集中させれば良いのか』をあの子に教えただけさ」


なるほど、あの行為にはそのような目的があったのか。変な意味は無く……


俺はナブスターさんに対して先程考えていたふざけた想像を全力で謝罪した。勿論心中で。


「僕もあの方法で魔法の体外射出を覚えたんだ……

最も、僕はあの子みたいに要領が良くはなかったから、使えるようになるまでかなり時間が掛かったんだけどね」


続けて彼は人差し指で頬を掻きながら話す。


それでも使えるようになるのは凄い。彼は努力家でもあるのだろうな。俺はそう思った。


「さて、それじゃあ他の子にも……おや?」


そう言って次に教える魔物を選ぼうとしていたナブスターさんの目の前に、その順番を待っていたケロ太を押し退けプチ男が飛び出して来た。


珍しい。プチ男が自分から何かを教わろうとするなんて……もしやコイツ、とうとうやる気になったのか。


ならばその気持ちを尊重しようと思った俺は不満そうにぷるぷると震えるケロ太を宥め、ナブスターさんにプチ男へと先程の練習をさせるようにお願いした。


「分かった。なら今度は君だな。


その次はそっちのプチスライムで……最後はクボタ君。君で良いかな?」


「あっ……僕も入ってるんですね。

いや何でもないです。むしろ有難いです、よろしくお願いします」


こうして、予想外にも好調の『遠距離攻撃魔法訓練(ナブスター流)』は続く……

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