九十七話 彼の試合
簡単なあらすじ『ロフター君の試合がそろそろ始まります』
会場全体を揺らしながら現れたのは、勿論ロフターの陣営だ。
ギガントトロールは相変わらずデカい。
そして少年は……客席にいるはずのルーと俺達を探しているようだ。
まあ、あれだけキョロキョロとしていればいずれ発見出来ると思うから、何か叫んだりして居場所を教える必要はないだろう。
対する相手の魔物は……ドラゴン!?
俺以外にもあんなに強力な魔物を仲間にしている者がいるとは……
と、思ったがあれはどうやら他生物の姿をコピーする魔物である、イヲカルモノ(※『クボタさんの魔物図鑑 その31』参照)だったようで、つまり本物ではなかったんだそうだ。大会のパンフレット的な物を読んでいたコルリスから聞いた。
勘違いしてしまってちょっと恥ずかしい……のはともかく。
ドラゴンの姿をコピーしているという事は、それと対峙した事もある……のかもしれない。だとすれば、何度も言っているが流石Fランクである。
見たり、すれ違ったりしただけの可能性もあるが、それでもだ。俺はまだエリマしかドラゴンというものを知らないのだからな。
「凄いな。流石Fランク」
「まあ、色んな意味で流石って感じですよね。ちゃっかりしていると言うか、何と言うか」
ついつい考えていた事が口に出てしまったが、やけに含みのあるような口調でコルリスがそれに返事をした。
彼女は何が言いたいのだろう?
そう思った俺は彼女に聞く。
「え、それってどう言う事?」
「気付きませんか?ほら、アレ……よく見て下さい」
すると、コルリスは偽ドラゴンを指差した。
だからそれが何だと言うのだ……あれ?
偽ドラゴンには片方の翼が無い。
しかも何処となくエリマに似ているような、いやそっくりだ。あれはもう、『ちょっと小さいエリマ』だ。
もしや、これは……
「コルリスちゃん。これって……」
「ええ。さっきも言いましたけどあの魔物は他生物の姿に変化出来ますから、どこかでエリマ君の姿を見て真似たんでしょうね。対戦相手を威圧するために」
やっぱり、そうか。
いやそれはダメだろ!ややこしくなるじゃないか!
周囲にいる何人かの観客達も動揺している。
恐らく、「あの魔物また出て来たんだけど……何で?」とでも考えているのだろう。
どうやら客の中にもあまりよくパンフレット的なものを見ていない奴は意外と多いようだ。俺と同じで。
……しかし、こんな事で俺がズルか何かしていると思われてしまったら困る。
そこで俺は「違います!!あれは俺の魔物じゃない!!偽物なんです!!」と声を張り上げて言…………
えたら良かったのだが、残念ながらそんなタイプではないので出来ず、その代わりにロフターを全力で応援する事にした。
「頑張れロフター!!
そのパクり野郎を倒してくれ!!」
そのような感じで、全力も全力でだ。
相手の魔物である偽ドラゴン、もといイヲカルモノはギガントトロールを目にすると突然吠えた。
ただ、その腰は引けている。
まあ、あの体格差だし、そもそもあの魔物は本来臆病な性格をしているらしいのだから仕方がない事のようにも思える。
そして、ギガントトロールはと言うと。
相手の咆哮に対して怒るワケでもなく、怯えるワケでもなく、ただ静かにその声の主を見つめている。
その姿、立ち振る舞いはまるで鍛錬を積んだ凄腕武闘家のそれ……
と、言うよりは雰囲気から察するに、奴はただ単に相手を格下だと見なしてそうしているだけのような気がするが……まあそれでも、堂々としている事は事実である。この勝負、余程のヘマをしなければギガントトロールが勝つと予測した。
そう、余程のヘマをしなければな。
あの時のように。
だがそれは『VSルー』の話だ。
『VS先遣隊ゴブリン』の時には負けこそしたが、間違いなくロフターとアイツは成長していた。
ならば、今回はあれ以上の戦いを見せてくれるはず。
楽しみだ。早く試合が見たい。
(…………でも)
俺はそのような期待を胸に抱きながらも、少しばかり不安になってしまった。
(次に彼等と出会い、戦う俺達は勝てるんだろうか。
課題の残る、今のままで……)
「クボタさん?下なんて見てどうしたんですか?
もう始まりますよ?」
「むむ」
二人が俺を不思議そうに見つめている。
彼等まで不安にさせてはいけない。
そう思い、何でもない風を装って俺は視線を中央に戻した。
「始め!!」
すると、その瞬間に試合が開始された。
そして、その直後にロフターはギガントトロールに指示を出したようだ。やはり、客席からではそれがどのようなものかまでは知る事が出来なかったが。
だが、彼が何と言ったのかはすぐに分かった。
何故ならば、ギガントトロールが…………
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