九十八話 煩いのクボタ

簡単なあらすじ『試合中、ギガントトロールは……?』




大会の一日目が終わった。

俺達は既に我が家へと戻り、夕食の準備をしている所だった。


当然、全員で戻って来ている。

スライム達、ルー、ケロ太郎(まあコイツは留守番だったけど)、アルワヒネ(あとコイツも……)は勿論、すっかり元気になったエリマもちゃんといるぞ。まだ少し、落ち込んでいる様子ではあるがな。


……あと、ジェリアも何故か付いて来た。

余程暇だったのだろうか?


「しっかし、ああもあっさりと勝ってしまうだなんて、ロフターも実力を付けたものね……どう?クボタさん。次の試合、あの子に勝てると思う?貴方の魔物達は」


そう考えていると、食材を一口サイズに切り終えたジェリアが俺に話しかけてきた。


まさに噂をすれば影とやら……

ではないな。影も何も、目の前にいるのだから。


まあそれはともかく、俺は返事をする。

幸い彼女の口調は煽るようなものではなく、本当にただの質問、といったような感じだったのでこちらも普通にだ。


「う〜ん。真面目な話、〝あれ〟への対策が出来ていればいけると思う。


でも、もしそうでなかったら……難しいかもしれないね」


それを聞いたジェリアは、少し心配げな表情をしていた。


気が付けば側にいたコルリス、エリマも似たような顔をしてこちらを見つめている。


今日の我が家はスライムのものではない夕食の香り、こんなにも幸せな香りで満ち満ちているというのに……




夕食を終え、俺は外で夜風を浴びていた。

それは暑かったから……


いや、正直に言うとまた考え事をしたかったからだ。

今日は本当に色々あったからな。


先程ジェリアが言っていた事からも分かる通り、ロフター試合は彼の勝利で終わった。


そしてその勝利は、『あの最初の指示』があったからに他ならないであろう。


ギガントトロールに片膝を付かせ、敢えて目線や上体を相手に合わせるという、あの指示があったからこそ……アイツらはあそこまで余裕を残した状態で対戦相手に勝利出来たのだと思う。


ロフターも考えたものだ。

確かにそのような姿勢からでは攻撃の威力自体は落ちるだろうが相手との距離が縮まる事で命中率は上がり、しかも弱点であった『下に潜り込まれる』というのを事前に防いでいるのだからな。


……いや違った。

考案したのはトーバスさんだった。


試合後に俺に接触してきたドヤ顔のロフター自身がそう言っていたのだから間違いない(口を滑らせた、と言うのが正しいが)。訂正しよう、流石トーバスさんだ。


まあ、あの人もどうやら俺とロフターとの戦いで魔物に人が技や、行動を教え指示する事の大切さを改めて実感し、あれを編み出したらしいが。


だとすれば皮肉なものだ。

何せ、直接でこそないが……それを彼等に教えた本人である俺が、まさに今それによって悩まされているのだから。


……二日後にある次の試合、俺達は彼と戦う。

そう、だから俺は今こうして悩んでいるのだ。


悩まなければならないのだ。

そうして対策をしなければ俺達は……


しかし、なかなか良い作戦は思い付かない。

俺の試合が終わってすぐに奴の試合があったから何となくそんな予感はしていたが……やはり第二試合の対戦相手がロフターとなってしまうとは。もう少し時間が欲しかった。


というか作戦もそうだが、魔物は誰にしよう?

エリマは難しいだろうし、プチ男は流石に体重差があり過ぎる。そうなるとルーしかいないが、〝あの時〟のようにはいかないはず。本当に彼女で大丈夫だろうか?


作戦も、魔物も決まらず、俺は大分焦ってしまっていたようだ。頭を抱え、うんうんと唸っていた事に今気付いた。


だが、それも仕方がないように思える。


『クボタさん!僕が勝ったらルーさんとのお付き合いを認めて下さい!いや……彼女を僕の元に置いた、結婚を前提としたお付き合いを認めさせます!』


ロフターにはあんなとんでもない事まで言われてしまったのだから。


アイツの事だからまず冗談ではないだろうし、もしかすると試合の翌日には馬車か何かでルーを迎えに来てそのまま……なんて事もあるかもしれない。


だが例え試合に負けてしまい、ロフターが本当にそうした所でそんな事を許すつもりはないが。ルーは家族なのだ、アイツにはやらん。


そもそも負けるつもりは無い。

しかし……そうは思いつつも、未だに良い作戦を思い付く事も無ければ、魔物を選ぶ事も出来ずにいる。


本当にどうしたら良いんだろうか。


そうして俺は悩み続けた。

ずっと、ずっと……夜が更けるまで。


だが、答えは出てこなかった。

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