九十六話 忘れていたけどそういえば……
簡単なあらすじ『エリマ君の課題。それは精神面……等々、色々と考えていたクボタさんの前に、人影が……』
前に立つ小柄な人影。
それはロフターだった。
彼はぶすっとした表情でこちらを見つめている。
いや、睨み付けている。とりあえず、何かしらの出来事のせいで不愉快になっているのは確かだろう。
だが、いつまでも彼はそうして俺を睨んでいるばかりだったので、仕方なくこちらから声を掛けてみる事とした。
「や、やあ」
「やあ。
じゃないですよクボタさん!!
これは一体どう言う事なんですか!?まさか応援しに来てくれると思ってた人達が同じ大会に出場しているだなんて……」
そう彼は言った。
ああ、確か試合中にもコイツはその事で叫びまくっていたな。
なので俺は考えるのを一時中断し、これまた仕方なく目の前でぷりぷりと怒っている少年に事の次第を説明した。
すると……こうなった原因は自分にもあるという事を知り、少年は少し大人しくなった。
「そう、でしたか……分かりました。では、それについてはもう何も言いません。
それにしても……
クボタさん。さっきの試合はどこか貴方らしくないと言うか、何と言うか……」
その後、彼は話し始める。
もう嫌と言う程聞いた、その手の話を……
「と、ところで!何でこんな所にいるの?」
なので俺は少々無理矢理にだが話題を変えるため質問する。
「ああ、そうでした……
いや!それはこっちの台詞ですよ!?
もうすぐ僕の試合なんですけど!?
なのに……クボタさんが会場から出て行くのが見えたんで、追いかけて来たんです。さあ戻りましょうクボタさん!そしてルーさんを連れて来てください!
僕とルーさんの関係を認めないだけに留まらず、応援までしないなんて……そんな事、許しませんからね!?」
彼は俺の質問に答えそう言った。
またぷりぷり怒りながらではあったが。
でもまあ、そりゃあ怒るわな。
そう思った俺は素直に謝り、彼と共に闘技場へと戻るのだった。
エリマの手当ては済んだ……が、メンタルの方はまだ復活には程遠いようで、とりあえず控え室にて引き続き休息させている。
(控え室は一人一室与えられるので当日中はずっと居座っていても無問題なのだ)
そんなエリマが心配ではあったがロフターとの約束を破るワケにもいかず、俺とルー、コルリスの3名(?)は今、観客達に混じって彼の応援をするべく待機していた。ちなみに、それ以外の者達はエリマと一緒にいる。
〝皆……あの子の応援、行ってきなよ。
そろそろ時間なんでしょ?もうどこも痛くないからさ、僕の事は気にしなくて良いよ〟
エリマもああ言っていたから問題は無い……
とは思うが、大丈夫だろうか?
いや、大丈夫ではないんだろうな。
この試合だけ見たらすぐに戻るとしよう。
「こっちで見るのにお金がかかるなんて……!
選手割引とかあれば良いのに……ブツブツ」
左隣のコルリスがぼやいている。
俺達がこの大会に参加しているにも関わらず、それを観戦するのに金を取られるのが不満なのだろう。
でもまあ、今は観客席にいるのだし、それは仕方ないのではないだろうか……とか言うと今度はターゲットが俺になりそうなので無言を貫く。
「むむ、むむむ」
右隣にいるルーはこの待ち時間が苦痛であるらしく、顔を左右にぶんぶん振るという謎の遊びで暇を潰していた。
彼女がそうすると、土と草の『自然いっぱい』な香りが周囲に漂う……またコルリスに頼んで一緒にお風呂に入れてもらわなければな。俺はそう思った。
……とか何とか思っていると、会場が揺れている事に俺は気付いた。
他の観客達もそれに気付いたようで、段々と辺りが静まりゆくのを感じる。「地震?」誰かがそう呟くのが聞こえた。
地震……大丈夫、違うぞ。
これはロフターの相棒である、ギガントトロールの移動によって発せられるただの『揺れ』だ。
そして、それが起きているという事は……もうすぐで試合が始まるのだろう。
「まあまあコルリスちゃん。ほら試合始まるよ?」
「ルー。それはそのくらいにして、ほら前」
俺は左隣、右隣にそれぞれ言い、自身も会場の中央に視線を移した。
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