九十五話 課題
簡単なあらすじ『クボタさん&エリマ、苦闘の末何とか勝利!!』
俺達は辛くも初戦を白星で飾る事が出来た。
……本当にやっとの事で、と言った感じでだが。
そしてその後、俺達はエリマの治療のために控え室へと直行したのだが、そこにやって来た知り合いに試合内容の事で色々と言われてしまった。
「クボタ、エリマ、勝利おめでとう……だが、少し珍しいな。君達があんな、荒削りな戦い方をするとは……」
サチエからはこう言われた。
まあ実際、その通りだったのでお恥ずかしい限りである。
「ねえ、クボタさん……あの子、まだ試合に出すには早かったんじゃないの?そりゃあ、勝てたのは良かったけれど……次もあんな感じだと難しいかもしれないわよ。それに、毎回傷だらけになるのはあの子も辛いと思うの」
こちらはジェリアに言われた事の内容である。
(ちなみに、やはりサチエはジェリアが呼んでいたようで、二人は一緒に控え室に訪れた)
こちらも全くもってその通りなので、やっぱり俺は何も言えなかった。
しかし、他人の恋愛で頭がいっぱいだったジェリアですらそのような感想を述べるとは……今回の試合は他者の目から見てもなかなかのものであったようだ。
勿論、悪い意味で。
そんなようなワケで、二人が帰った後にエリマ本人に直接話を聞いてみる事とする。
〝ごめん、クボタ。
クボタの声は聞こえていたんだ。だけど……
相手に攻撃が当たった時は、『これならすぐ勝てるんじゃないか』と思って鼓動が激しくなるし、それで観客が沸いた時は驚いたけど嬉しかったりもして物凄く興奮したし、でも、緊張もして……
そんな沢山の感情が溢れてきて、耐えられなくなって……そこからはクボタが何を言っているのか、全く分からなかったんだ。
だからその……ごめん。
それにしても、『戦う』って結構難しい事だったんだね〟
以上がエリマ本人から聞いた話だ。
ちなみに、擦り傷や切り傷、それと打撲、あと軽い火傷等々、あちらこちらにしているもののどれも大したものではなかったため、彼は無事である……が、大事を取ってもう暫くの間は控え室で休ませている予定だ。
しかも今はコルリスや魔物達も彼に付き添ってくれているから心配はいらないだろう。そう思った俺は少し、闘技場から出て外の空気を吸いに行く事とした。
そうして俺はふらふらと歩き続ける。
先程の試合、そして彼の話した事等を思い出しながら。
全てを話してくれたエリマを俺は怒らなかった。
それに、今考えているのは別にあの試合の問題点やエリマに対しての不満などでは無い。
(いや、むしろ問題点、早急に改善しなければならない点があるとすれば……それは間違いなく、『エリマの精神面』の方だ)
そんな事を俺は考えていた。
彼のあの行動は……『慢心』と『緊張』によって引き起こされたのであろうという事を。
先程してくれた彼の話で分かったのだ。
これは断言出来る。
何故ならば、俺もそれに悩まされた者の一人であるからだ。嫌という程よく分かる。
慢心…………
俺もまだ試合慣れしていない頃、相手の動きも見ずに放った技が偶然ヒットし、それを自身の実力のお陰だと勘違いして調子に乗ったらあっさりと負けてしまった……みたいな事はよくあった。
緊張…………
これは言わずもがなだ。緊張し、無駄に興奮して周りが見えなくなるという状態には冷静さを欠けば割と簡単に陥ってしまうのだからな。
そう。だから俺はエリマに怒らなかったのだ。
というか、『怒れなかった』というのが正しいか。
それは勿論、過去の自分もそうであったというのが一番の理由ではあるが……
それを克服するというのがどんなに難しい事か、苦しい事か。また出来たとしても所詮生物のそれ、完璧などとはとても言えたものではない……なんて事を知っているのだから、怒れるはずがないのだ。
とにかく。
これで敗因……いや負けてないか。もとい、問題点は判明したのだ。次はそれをどうやって改善するかを考えなくてはならない。
エリマの練習、それか指導方法を変えてみようか……具体的な案があるワケではないが、確実にその方が良いな。
俺はそのような事を、歩みだけは止めずにひたすら思案し続けていた。
すると、前に立つ小柄な人影がある事に気付いた。
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