九十三話 初戦!ロシバ地方漁業組合感謝杯(Fランク)

簡単なあらすじ『クボタさんは応援しに行くはずだったロフター君と同じ大会に参加申請をしていた事を知りました。むしろぶっ倒してやろうぜ!』




ロシバ地方漁業組合感謝杯(Fランク)。

その大会の当日がやって来た。


そして、大会の第一試合……それが俺達の初戦となる。


大会参加者の中で誰よりも早くそれを行うというのは流石に少し緊張してしまう……


「クボタさん!!何故ですか!?何故なんですか!?

まさか……これは僕達の事を認めないって表明何ですか!?そうなんですか!?」


「お止め下さい坊ちゃん!クボタ様にご迷惑が掛かってしまいます!」


「クボタさ〜ん!

俺も応援してるんで頑張って下さいねー!あと、たまには牧場にも来て下さいよー!クボタさんなら割引するんで!!」


「頑張れクボタ!!私がついているぞ!!

アトラン族を代表して君を応援しよう!!さあいけクボタ!!頑張れクボタ!!」


「クボタさん!!この一戦には必ず勝利するのよ!!

貴方が勝ち進まないと恋物語が終わってしまうんだからね!!」


緊張してしまう……はずだったのだが。

ギャラリーからの声援に聞き覚えのあるものが多くてしたくても出来なくなってしまった。


というかサチエもいるんだな……多分、コルリスかジェリアが呼んだのか。


「フフフ、緊張が解れたみたいですね、クボタさん」


隣にいるコルリスが言う。

そう言う彼女も控え室にいた時とは違い、自然な笑顔をしていた。


「うん。沢山知ってる声が聞こえてくるせいで、出来なくなっちゃったよ」


「でもそれで良かったんじゃないですか?」


「……そうだね。よし!

じゃあ話はここまでにして、俺達は試合に集中しよう!」


「はい!」


もう間も無く、第一試合が始まる。




闘技場の中央に立つ二匹の魔物。

俺達はそれを見守る。


そして、今回三匹の中から選んだのは……


エリマだ。

観客達よ。〝技〟というものを覚えたドラゴンの実力、とくと見るが良い。対戦相手もだ。


で、その対戦相手は小柄な若い女性であった。


少し意外だとは感じたがこれは魔物使いの、それも魔物同士の戦い。魔物やその主人がどのような姿をしていたとしても、それだけで判断してしまっては必ずや痛い目を見る事になるであろう。


というワケで俺はむしろ気を引き締めて戦いの行方を見守る事とする。


というか、その女性だが……

さっきから俺を、悪意をこれでもかと言う程込めた目で凝視しているように感じる。


「クボタさん答えてください!!どうしてなんですかー!!」


ロフターの声援(?)が会場に響いた時、その女性の利かせている睨みが更に鋭くなったのを俺は見逃さなかった。


うわぁ、もしかして彼女は『コイツの知り合いうるせぇなあ……調子乗ってるんじゃねえよ!』とかそんな事を考えているのだろうか?


どうかもう少し声援は控えめにして欲しい……

というかロフター、とりあえずお前はそれをやめろ、仕方ないだろもう出場しちゃったんだから。


俺はその恥ずかしい声援(?)と今も尚飛ばされ続けている鋭い視線から逃れるように、中央に立つ二匹の魔物に目を戻した。


エリマはやや興奮しているようで、片翼をしきりにはためかせている。


正直、少し心配だ。

興奮し過ぎて冷静な判断が出来ない。という事にならなければ良いのだが……


彼は激情によって引き出される暴力的な力なんかよりも、持ち前の知能と身体能力を駆使した方が間違い無く強いのだから。


そして相手の魔物は……恐らく、クンピーラだろうか。蜥蜴と人が合わさったような見た目をしたその魔物はエリマ以上に興奮している様子だった。


その魔物には声帯があるらしく、想像していたよりも野太い声で吠え立て、目の前の相手を威嚇している。


また、それが自分よりも大きいのだから仕方ないかもしれないが、どうやらその興奮は恐怖から生じたものであるようだった。


それにしても、あの様子でまだ攻撃して来ないのが不思議なくらいである。『今が試合前だから』とかそんな事を理解出来る程の知性、もしくは理性が残されているという事だろうか?とにかく、油断ならない相手である。


まあでも。エリマならばきっと、きっと勝利を運んで来てくれるだろう。勿論、俺もその手助けを全力でするつもりだ。


さあ……戦いを始めるとしよう。




……まあ戦いの始まりは俺ではなく、あそこにいる審判が決めるんだけどね。俺はちょっとカッコつけただけだ。

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