九十二話 これも因果と呼ぶべきか

簡単なあらすじ『ロフターからのお返事が来ました……けどジェリアちゃんは先に見てしまったようですね』




「ジェリアちゃん読んだね?」


手紙の封が切られ、そしてそれが再び閉じられた形跡がある事に気が付いた俺はすぐさま振り返ってそう言った。


ジェリアは分かりやすく『ギョッと』している。


まあ、この手紙は差出人の手を離れてから受取人の元に辿り着くまでは彼女しか経由していないのだから別にそんな顔をされなくても分かるのだが。むしろそんな状況でよく開けたものだ。


「全く……人の恋路をそんな盗み見るような真似はしない方が良いと思うけどなぁ」


俺はそんな彼女を嗜めるため、とりあえずそう言っておいた。


(気持ちは分からなくもない、けどね)

とか、そんな余計な事は言わずに。


「ち、違うわ!違うの、これは……


そう!誤解なのよ!私もほら、ロフターが大会に出場するなら応援しに行った方が良いじゃない?だからそう!その日程を知るために、ちょっと先に?読ませてもらっただけで?」


ジェリアはあたふたとしながら釈明を始める。


彼女がそんな表情、口調をするのが珍しくて、面白くて……俺はこれ以上注意する気にもなれなくなってしまった。


「はぁ……わかったわかった。

とりあえずこれは後で読ませてもらうから、ジェリアちゃんは家に入っててよ」


「何よ!やっぱり貴方も読むんじゃないの!!

この不埒者!人の事言えないじゃない!」


すると、ジェリアが突っかかってきた。

俺を同罪扱いするとは、困ったものだ。


「いやいやいやいや、これは俺宛の手紙だから良いでしょ……それに、例えこれがルー宛の手紙だったとしても、ジェリアちゃんみたいな理由で勝手に読むワケじゃないし?」


「は、はぁ!?私みたいな理由って何よ!」


「まあまあ二人共……」


そんなワケでちょっと揉めていると……コルリスに宥められた。


まあ確かに、俺も軽く煽ったしな……

そう思っていた俺とジェリアは彼女の言う事を素直に聞き入れ、争いを止めるのだった。




無益な争いは止め、俺達は家に戻った。

ちなみに、ジェリアはまだちょっとご機嫌斜めでいる。


で、後にしようかと思っていたが先にロフターからの手紙を読む事にした。


コルリスから「昼食の準備を手伝ってくれるのは有り難いですが……先に読んじゃった方が良いと思いますよ?もし何か予定のある日とかだったら大変ですし」と言われたからだ。


確かにその通りである。

という事で俺は封筒の中から手紙を取り出した。


封は一度切られていたのでそれはすぐに、それも簡単に開ける事が出来た。


そして、そこには。


あの見ているこっちが恥ずかしくなるような甘酸っぱい文章は見当たらず、ただただ事務的に大会の名前……『ロシバ地方漁業組合感謝杯(Fランク)』と、それと日程等だけが記載されていたのだった。


(ちなみに大会名が気になる方もいるかもしれないが……どうやら金を払って自分の好きな名前に出来る競馬と似たようなやり方を大会の運営委員会的なものがしているらしく、それでこのような名前になっているらしいぞ。だから今回は多分、ロシバ地方で漁業をしている人達が付けたんだろうな)


まあ、俺宛の手紙だからこうなるのは当たり前か…………なぁんだ、面白くない。


「ああ!クボタさん今それ読んで面白くなさそうな顔したわね?分かるのよ私には!私も最初見た時そんな顔になったもの!


って事はやっぱり貴方も気になってたんでしょ、ロフターが〝それ以外〟に何を書くのか……この不埒者!」


「う、うるさいぞ!」


図星だったのでジェリアにはそれだけ言い……

俺はコルリスと共に昼食作りを始めた。


「気になってたんでしょ?」

「本当は気になってたんでしょう?」


後ろにいるジェリアが五月蝿い。

そんなくだらない事を言っているのならば少しは手伝って欲しいものだ。


「ア、アハハハ……ところでクボタさん。その大会は結局いつ開かれるんですか?」


暫く俺がそれに耐えていると、コルリスが助け舟という名の質問をしてきてくれた。流石コルリスは優しい。ジェリアとは大違いだ。


まあそれはともかく、俺は彼女の質問に答えて大会名と日程を教える……


すると、コルリスの顔がみるみる青くなってゆくではないか。これはどうした事だろう。


「どうしたのコルリスちゃん!?

具合悪いの!?」


「コルリス、大丈夫?」


心配になった俺とジェリアはそう尋ねる。

しかし彼女から返ってきたものは、意外な返答だった。




「あああ……あ、あのあのあの………………ごめんなさい!ごめんなさいごめんなさい!!


どうしましょう。私、ロフター君と同じ大会に参加申請を出しちゃいました……ど、どうしましょう!?どうしましょうクボタさん!?ジェリアちゃん!?」


…………そうか。

ならつまり、また俺達は戦う可能性があるのか。


まあ別に良いんじゃないか?

そもそもコルリスは悪くないし。


そう思い、俺は彼女を落ち着かせようと話しかける。


「コルリスちゃん、そんなに慌てなくても大丈夫だよ。あの時点ではアイツがどの大会に出るかなんて知らなかったんだし、コルリスちゃんは悪くないよ。


どちらかと言えばだけど、その話をし忘れていたロフターと、コルリスちゃんに参加申請を出すようお願いした俺が悪いんだからさ。だからね、とりあえず落ち着こう?」


「愛し合う二人が争わなければならないなんて……!これは私も絶対見に行かないといけないわね!!」


ジェリアはその事を知り、むしろ喜んでいるようだ。

というか少なくとも今は相思相愛ではないんだから、その表現はやめてほしいのだが。


「ほら、ジェリアちゃんもワケ分かんない事言ってるだけだから大丈夫だよ。気にしないで」


こうしてコルリスが顔面蒼白となった理由を知った俺達は、ひとまず彼女を落ち着かせた後で昼食作りを再開するのであった。


ちなみに……

最終的にはやはりと言うべきか、『まあ別に良いんじゃね?むしろぶっ倒してやろうぜ!』みたいな空気となったのでその事がコルリスの精神面に悪影響を及ぼす事は無かった。


ただ、その事がきっかけとなり『その手の話がしたい欲』が限界となったのか、ジェリアが更に詳しくロフターとルーの話を聞こうとずっとまとわりついてきたので俺は疲れた。

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