八十八話 ブチギレジェリアちゃん

簡単なあらすじ『ジェリアちゃんは怒っています、クボタさんのせいで』




(しまった!!ジェリアちゃんの事をすっかり忘れていた!!)


その事に気付いた俺はナブスターさんに我が家の場所を教えて別れた後にすぐ店の扉を開けた。


そうして入店すると、入口であんぐりと口を開けているコルリスと、その横にいるケロ太郎を発見した。


彼女は俺の存在を知ると目でこちらに何かを強く訴えながら、そこから少し離れた席に座っているジェリアを指差す。


恐らく、「クボタさん!?一体貴方は何をしたんですか!?」みたいな事を言いたいのだろう。


そして、彼女の指差す方向を見やると……

もうジェリアの視線は窓の外に向けられてはおらず、代わりにそれは、今店に入って来たばかりの男にこれでもかと言う程注がれているのであった。


「クッ!」


俺は表情を歪める。

『俺の背後にジェリアの怒りの対象があり、彼女はそれを見つめていた』という一縷の望みに賭けていたが、やはりそんな事はなかったようだ。


「ど、どうしたら良いんだ……」


「クボタさぁん……」


絶え間なく、それも対象が焼き切れるまで放たれ続けるであろうその視線に射抜かれた俺と、流れ弾に被弾してしまったコルリスは抱き合い恐怖した。


……が、コルリスは俺が悪いと知った途端に敵側へと寝返り、彼女はジェリアの前まで俺を無理矢理に連れて行くと、大衆の面前で謝罪をさせたのだった。


「酷い、俺は家主なのに……」なんて事は言わないし、言えもしなかった。俺が悪いのだから。




「……で?」


謝罪から数分後、やっとジェリアが口を開いた。


その顔を見、俺は恐怖した……が、とにかく返事をしなければならないだろう。


「……え?な、何?どうし」


「で?どうして私を呼んだのかしら?」


しかし、彼女に言葉を遮られてしまった。


「あ、ああ。それは」


「いえ、違うわね。

ごめんなさい言い方が悪かったわ」


また、遮られてしまった……


「クボタさん。

私をまた〝あんな方法〟で呼び出しておいて、自分は遅刻…………さぞ、緊急の用事なんでしょうね?ね?そうよね?


……さあ、教えて頂戴。

遅れてやって来たクボタさん。貴方は、どうして、私を、緊急召集なんかで、呼び出したの?」


彼女はそう言った。

最後の方は言葉を区切り、強調して。


それを聞いた俺の中にある恐怖は更に増大する事となった。


そして、それは何故かと言うと……彼女が話し始めてから今まで、ずっと笑みを浮かべているからだ。


それも、普段なら『とても上品で、尚且つ可愛らしく』俺の目には映るであろう笑みを。これなら怒ったままの顔の方がまだマシである。


いや、流石に怖過ぎるくらいだからもしかすると彼女は本当に怒っていないのでは……なワケ無いので、とりあえず最初にもう一度謝らなくては。


そう思い、俺は口を開いた。


「……本当にごめ」


「ウフフ、おかしな人ね。

私は謝罪して欲しい訳じゃないのよ?


それに、私怒ってなんかいないわ。

緊急召集を掛けたくらいだもの、クボタさんもきっと忙しかったのよね?大丈夫、分かっているわ。


だから早く、私を呼び出した理由を教えて頂戴。

時間が惜しいわ。


貴方だってそう思うでしょ?

ね?クボタさん?」


が……またまた彼女に遮られてしまった。

何故ジェリアはさっきから俺の発言を遮断して来るのだろうか……


「どうかしたの?顔色が悪いわよ?」


彼女は俺から目を離さずに続けて言う。


謝罪も出来ず、弁解する隙も与えられていない……ダメだ。どうする事も出来ない。


そして、とにかくその笑顔が怖い。怖過ぎる。

これでは弁解などどの道出来ない。おまけに口まで動かない。回りもしない。


そうだ!

ここは一旦トイレに退避し、急場を凌ごう。

彼女にも俺にも一度精神を落ち着けるだけの時間が必要だ。


「ご、ごめん!俺ちょっとお手洗いに」


そう考えた俺は席を立……


「待ちなさい」


とうとしたが、ジェリアに腕を掴まれてしまった。


その顔は般若に戻っていた。

作戦は失敗だ。だがしかし退却も出来なければ進撃もまた出来ない。どうしたら良いのだろうか。


……と、そこでコルリスの存在を思い出した俺は視線を移す。彼女は今、俺達の争いをクソつまらない見世物を前にしているかのような瞳で見物していた。


(ちょ!コルリスちゃん助けて!お願い!)


俺は先程の彼女のように、目でコルリスにSOSを送った。送り続けた。それが届くまでずっと、それも必死に。


であるにも関わらず、残酷な事に彼女はとても面倒くさそうな顔をしただけだった……


だった……が、暫くしてからため息を一つ吐き出すと、「まあまあジェリアちゃん。そのくらいで……」と言い、彼女の説得を始めた。


それすなわち、漸く彼女は俺を助ける気になってくれたという事なのである。

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